陽月華さんの退団は惜しい


宝塚歌劇支局2009年2月2日より引用。

 先頃退団を発表した大和悠河さん、陽月華さんの宙組トップコンビのプレサヨナラ公演となった宝塚ロマン「外伝ベルサイユのばらアンドレ」(植田紳爾氏。脚本、演出)とグランド・レビュー「ダンシング・フォー・ユー」(中村一徳氏。作、演出)が、名古屋・中日劇場(2009年2月1日(日)〜2月23日(月))で開幕した。 



 昨年の全国ツアーで好評だった「外伝」シリーズの番外編とでもいった趣の今回の作品。アンドレにはオスカルという思い人がいるのだから、いったいどんな話になるのかと思っていたら、アンドレがジャルジェ家に仕える前の少年時代、故郷の田舎で知り合った幼なじみのマリーズという女性を登場させてきた。池田理代子さんの原作にも出てこない人物で「外伝おまけ編」(プログラムより)とはいうものの、これはちょっとルール違反に近い作劇。ここまでいくとちょっと何でもありの世界になってきた。ただ、アンドレの目が不自由になっていく過程がじっくり描きこまれ、これまでの「ベルサイユのばら」にはなかった場面が多く、マリーズという新しいキャラクターの登場もあってかなり変わったテイスト作品に仕上がっている。


 「ベルサイユに花が咲く」の歌とともに大和さんや陽月さんが純白の豪華な衣装で登場、まずは外伝シリーズ共通の華やかなオープニング。続いて、舞台はアンドレの故郷プロバンスの田舎へ。少年時代のアンドレ天咲千華さん)と幼なじみのマリーズ(百千糸さん)が、将来、結婚を約束して別れる場面にフラッシュバック。そして一気に二十数年が経過、少年少女は成人した2人(大和悠河さん、陽月華さん)に入れ替わり、それぞれの思いを歌い上げて物語が展開していく。

 マリーズは、結婚の約束をしたアンドレを探すためにベルサイユにやってくる。行き倒れ同然のところを酒場の女将シモーヌ鈴奈沙也さん)に助けられ、雇われることになる。この店の常連にオスカル(早霧せいなさん)やブイエ将軍(一樹千尋さん)がいて、やがて、マリーズはブイエ将軍の養女になる。

 一方、アンドレは故郷をあとにしてジャルジェ家に仕えるうちに秘かにオスカルに恋していたが、ある日、邸宅に侵入したベルナール(凪七瑠海さん)ら黒い騎士に襲撃されて目を負傷してしまう。失明しては愛する人を守れない。パリに進軍しようとするオスカルを止めようとブイエ将軍宅に命令の撤回を頼みにいくのだが、そこでマリーズと運命の再会をする。


 これまでの「ベルばら」の名場面、オスカルがフェルゼン(悠未ひろさん)に愛を告白する場面なども散りばめながら、マリーズのアンドレへのかなえられない一途な愛がつづられていく。結末が分かっているだけに切なく、満員の場内はすすりなきで充満した。

 マリーズのプロバンスなまりを名古屋弁と似た土佐弁にしたため、当初は陽月さんがセリフをしゃべるたび笑いが起き、どうなることかと思ったのだが、クライマックスの再会の場面では、2人が土佐弁で会話しても、笑いひとつ起こらなかった。なかなか緊張感あふれる場面となっていた。

 バスティーユはオスカルの代わりにアンドレが戦うという場面に変わっていたり、ここまでやるとほんとにもう何でもあり。これで終わりと言ってはいるものの、まだまだ「外伝シリーズ」は続きそうな気配だ。

 大和さんのアンドレはとにかくりりしく美しく、いまさらながらこれが「ベルばら」初体験とは本当にもったいない。アンドレ編なのにオスカルとの今宵一夜の名場面がなかったのが残念だった。

 陽月さんも、ユーモアたっぷりの土佐弁のコミカル演技は別として、養女になってからの豪華なドレス姿が輝くばかりに美しく、まさに今が旬。退団が惜しまれる。

 オスカルの早霧さんは、金髪のカツラもよく似合い、タイプ的にはぴったりの役どころ。フェルゼンに振られて、飲んだくれ、アンドレに介抱されるという場面が見せ場だった。

 ベルナールの凪七さんは男役としてずいぶんと引き締まってきた。立ち姿もきりっとしてきて、表情に精悍さがでてきた。初日は立ち回りで転倒してはっとさせる一幕もあったが、成長著しい。オスカル役が楽しみだ。

 一方、アラン役の北翔海莉さんは、練兵場の場面で目が見えなくなったアンドレをかばう男の友情の場面で泣かせた。このあたりは北翔さんの独壇場。少ない出番だが芝居のうまさが際だつ。

 フェルゼンの悠未さんは、さすがに存在が大きい。それだけで包容力が感じられるところがいい。初日は風邪気味でセリフがやや弱かったのが惜しい。ジェローデルの十輝いりすさんは、オスカルに結婚を申し込む場面での登場。すっきりした二枚目ぶりだった。

 娘役では花影アリスさんがいじめられているところをマリーズに助けられる酒場女という軽い役だが印象的。ショーでは北翔さんの相手役やラインダンス、さらにはエトワールと大活躍だった。ほかにマロングラッセ役の邦なつきさんら専科陣が大健闘、舞台に厚みを出すのに成功していた。

 「ダンシング・フォー・ユー」は、テンポが勝負。蘭寿とむさんが抜けたところを主に北翔さんがカバー、また違った雰囲気を醸していた。