2009年初宝塚は、「太王四神記」−チュシンの星のもとにー



 花組公演を観てきました。お正月のすがすがしい空気が気持ちよかった。2階席3列目。一言でいえば、脚本・舞台・演出・装置が一体となった最高の仕上がり。宝塚に、また名作が登場したという感じです。


 写真 左 桜乃彩音さん 中央 真飛聖さん 右 大空祐飛さん

 

 2009年1月1日(木)〜2月2日(月) 花組宝塚大劇場公演  NTT東日本NTT西日本フレッツシアター 幻想歌舞劇『太王四神記』−チュシンの星のもとに− 〜韓国ドラマ「太王四神記」より〜 脚本・演出/小池修一郎氏。
ファヌン/タムドク= 真飛聖(まとぶ・せい)さん カジン/キハ= 桜乃彩音(さくらの・あやね)さん ヨン・ホゲ= 大空祐飛 (おおぞら・ゆうひ)さん


朝日新聞より引用。

 宝塚歌劇95周年の幕開けをかざる花組の『太王四神記』(脚本・演出:小池修一郎氏)が宝塚大劇場で上演中だ。原作はペ・ヨンジュン主演の韓国ドラマで、朝鮮半島にあった高句麗の広開土王をモデルに、若き王タムドクが様々な困難を乗り越え、真の王となっていく姿を描いた歴史ファンタジー。原作ドラマの、CG映像を駆使した表現や、神話の時代から始まる長大な物語をどう舞台化するかが注目されたが、スピーディな展開で観客をひっぱりながらも、詰め込みすぎない脚本と、宝塚ならではの華やかさに、重厚さを加えた演出で、幅広い層が楽しめる、見ごたえある作品になっている。

 物語は神話の時代、主人公たちの前世の因縁から始まり、2000年の時を経て転生した彼らがこの世に生を受けるまでを一気に見せていく。天の力を手に入れようとたくらむ魔術師の陰謀、王の座を巡る宮廷での権力争い、4つの神器を探す旅と戦いなど、盛りだくさんの内容が、盆回しを効果的に使った場面展開でテンポよく綴られ、飽きることがない。

 一方で宝塚版は、壮大な物語の全てを無理に詰め込まず、主人公のタムドク(真飛聖さん)、彼とひかれあいながら運命に翻弄される女性キハ(桜乃彩音さん)、タムドクのいとこで王位とキハをめぐって彼と敵対するヨン・ホゲ(大空祐飛さん)の三角関係に焦点が当てられている。宝塚らしく、タムドクとキハの愛の成就を芯にしたことで、贅沢な愛のドラマが堪能できる。

 宮廷場面の絢爛豪華な装置や衣装、戦闘シーンの重厚な甲冑と陰影を生かした照明、クライマックスではタムドクとキハの2人を乗せたクレーンが客席に迫り出し、見応えある場面が最後まで続く。大人数による殺陣などアクションシーンも力強く、女性だけの線の細さをほとんど感じさせない。従来の宝塚より骨太でダイナミックな舞台は、原作ドラマのファンにも受け入れられそうだ。

 次にキャストを見ると、主人公タムドクの真飛聖さんは、悩み迷いながら、真の王になろうと努力する青年を繊細に演じている。最初から偉大な王だったのではなく、その人柄にひかれた者たちが彼の下に集まり、タムドクはやがて彼らに支えられ、彼らを率いる立場となっていく。青年の成長する姿を等身大に演じて、共感を呼ぶ。

 真飛さんとコンビを組んでから、可憐で控えめ、妹的な立場の役が続いていた桜乃彩音さんは、一転して、激情を秘めたヒロイン、キハを演じている。あらがいきれない力に流され、望んでもいないのに周りを巻き込んでしまう。そんな悲しみや絶望をたたえた目の演技が力強くひきつけられる。

 ヨン・ホゲは大空祐飛さんにははまり役。武道に優れた彼こそ真の王と目され、闊達に生きてきたが、彼もまた運命の手によって、幼い頃から友情を育んできたタムドクと決別、破滅へと進んでいく。大空はまっすぐな性格ゆえに、一転して狂気に変わっていく人物を深く演じている。甲冑姿も非常にさまになっている。

 彼らの運命を背後で操る黒幕が太古の時代から生き続ける火天会の大長老プルキルで、演じる壮一帆さんは、徹底した悪役ぶりで舞台を引き締めている。明るくまっすぐな人物を演じることが多かったが、この役で大きく幅が広がったのではないだろうか。今後が非常に楽しみだ。

 愛音羽麗さんはスジニ、幼くして生き別れたキハの妹で、玄武の神器の守り主であるヒョンゴたちに拾われ、育てられた。長じてタムドクに恋心を抱く。愛音さんは女役だが、男の子のように育った女の子という設定なので、自然なかわいらしさを発揮している。序盤、前世のセオ役で真飛さんのファヌンと踊る場面も美しい。

 スジニを保護し育ててきたコムル村の村長ヒョンゴを演じる未涼亜希さんは物語の導き手でもあり、進行がわかりやすいのも、その語り口によるところが大きい。

 ほか、印象に残った人物として、華形ひかるさんの火天会士サリャンは、プルキルの手先でキハを監視しているが、最後はキハを守ろうとして死ぬ。口に出さずともキハを思う心情が伝わる。
 真野すがたさんが演じた青龍の神器の守り主チョロは、身体に青龍を埋め込まれたために醜くなっていた容貌が、タムドクの力で本来の姿に戻る。真野が仮面をはずし、その顔を見せるところは納得の美しさ。

 芝居のすぐ後に続くフィナーレも品よく、バランスよくまとまっていて、満足感がある。

 真飛さん、桜乃さん、大空さんの3人がじっくり絡む恋愛ドラマは、花組がこの体制になって以来初めて。役柄に、それぞれの持ち味が生かされていて、3人の愛のドラマの行方が気になり、最後まで見守ってしまう。宝塚恋愛ドラマの王道を堪能するにはもってこいの作品だ。