『外伝 ベルサイユのばら -ジェローデル編-』

 

 2008年5月17日(土)〜6月15日(日)  雪組全国ツアー公演 宝塚ロマン『外伝 ベルサイユのばら -ジェローデル編-』原作/池田理代子氏。外伝原案/池田理代子氏。脚本・演出/植田紳爾氏。解説= 名門貴族の御曹司で、女性と見まごうばかりの美貌と冷たいデカダンスの雰囲気を持つジェローデル(水夏希(みず・なつき)さん)。強い美意識と卓越した知性、そして素晴らしい剣の腕前の持ち主でもある。
 アントワネット付きの武官として近衛隊に入隊した年上のオスカル(音月桂(おとづき・けい)さん)にライバル意識を持ち試合に挑み敗れる、それ以降、オスカルの美しさ、知性、そのまっすぐな信念に強い憧れと関心を抱き、喜んで副官としてオスカルに仕えるようになる。
 王妃の恋人と噂されるスウェーデンの貴族フェルゼン(彩吹真央(あやぶき・まお)さん)が、妹ソフィア(白羽ゆり(しらはね・ゆり)さん)を伴ってフランスにやってくる。ソフィアにフランス宮廷のエレガンスを学ばせるというのが名目だが、王妃との噂が表立ってきたために、ソフィアに王妃と自分との連絡係をさせるためでもあった。そのような中でジェローデルを知ったソフィアは、その美しさに惹かれていく。そして、ある時、ジェローデルに窮地を救われて以来、ソフィアの想いは憧れから恋心へと変化していく……。

ジェローデル= 水夏希さん / ソフィア= 白羽ゆりさん / 
ジャルジェ= 萬あきらさん / ブイエ/隊長= 一樹千尋さん / 
マロングラッセ飛鳥裕さん / フェルゼン= 彩吹真央さん / 
尼僧= ゆり香紫保さん / 
ギーヌ= 天勢いづるさん / 
オスカル= 音月桂さん / 
令嬢= 麻樹ゆめみさん / 
フローラ= 山科愛さん / 
尼僧= 舞咲りんさん / 
ロベスピエール彩那音さん / 
尼僧= 森咲かぐやさん / 
令嬢= 花帆杏奈さん / 
平民議員= 柊巴さん / 
尼僧= 神麗華さん / 
ラ・ファイエット= 谷みずせさん / 
令嬢= 穂月はるなさん / 
平民議員= 真波そらさん / 
令嬢= 晴華みどりさん / 
近衛隊士= 衣咲真音さん / 
ラサール= 大凪真生さん / 
ジュール= 大湖せしるさん / 
平民議員= 祐輝千寿さん / 
近衛隊士= 愛輝ゆまさん / 
ジャン= 蓮城まことさん / 
家令= 帆風成海さん / 

 

 併演はショー・ファンタジー『ミロワール』−鏡のエンドレス・ドリームズ− 作・演出/中村暁氏。解説=『ミロワール』はフランス語で鏡の意味で、「鏡」と「鏡の中のもう一つの世界」をテーマに構成したショー。人は古来より鏡に特別な力を感じます。神秘的なものの象徴でもあり、その時代を映し、異次元へと誘う鏡。スタイリッシュなダンスとダイナミックな群舞、出演者の一体感が更に客席との一体感を生み出し、鏡が織り成す複数に増殖していくイメージが、ゴージャスな世界を描き出す。



読売新聞より。
 大ヒット作「ベルサイユのばら」の番外編にあたる「外伝シリーズ3部作」のトップを切って上演された。男装の麗人オスカルや王妃マリー・アントワネットなど、おなじみの登場人物ではなく、脇役に光を当てた書き下ろし作と聞けば、宝塚ファンでなくとも興味をそそられるだろう。

 18世紀のフランス。名門貴族のジェローデル少佐(水夏希=写真右)に、元上官のオスカル(音月桂)との縁談が持ち上がる。スウェーデンの貴族フェルゼン(彩吹真央)を恋い慕うオスカルは婚約を拒む。

 一方、フェルゼンの妹ソフィア(白羽ゆり=同左)は、ジェローデルにひそかな思いを寄せていた。やがて、革命の火ぶたが切って落とされる。

 描線が細く、女性的なジェローデルは、男性的であるべしと虚勢を張るオスカルと対をなす存在。クールで理性的な美しさを持つ水は、はまり役だ。一見、冷ややかだが非人間的ではなく、高潔で包容力のある男性像を立ち上げた。

 白羽も貴族の娘らしい知性と気品を感じさせ、適役。修道女となってジェローデルをかくまう場面では、強さや母性ものぞかせる。音月は感情の高まりをあらわにした演技でジェローデルの個性を際立たせた。

 植田紳爾の脚本は、粛清の嵐が吹き荒れる恐怖政治やナポレオンの皇帝即位など、革命の矛盾点にも切り込み、歴史を重層的に描いた。修道院でジェローデルとソフィアが再会し、過去へさかのぼる導入部が効果的。観客を一気に物語の世界に引き込む。民衆が武器を手に戦う場面など迫力に満ちた群舞シーンも織り込んだ。

 「ベルばら」は「愛あればこそ」など数々のヒット曲も生んだが、今回はあえて「愛のかたち」「伝わりますか」(植田作詞、吉田優子作曲)などの新曲を使用。シンプルで甘美な旋律はいつまでも耳に残る。

 再演ものが中心だった全国ツアーで、新作を上演する試みも面白く、衛兵隊の兵士アランや「黒い騎士」として暗躍するベルナールの視点で描かれる続編が楽しみだ。演出も植田。

(坂成美保)
 ――18日、梅田芸術劇場メインホール。