『君を愛してる−Je t'aime−』

宝塚トピックスより。(舞台評)宝塚雪組公演「君を愛してる−Je t'aime−」 心地よく、すがすがしい後味

 宝塚大劇場で公演中の「君を愛してる−Je t'aime」(作・演出:木村信司氏)はタイトルこそ平凡で直情的。深みも何もないけれど、それも愛嬌(あいきょう)だと思わせる心地のよさがある。

 舞台は20世紀のパリ。伯爵家の長男ジョルジュ水夏希〈みず・なつき〉さん)は父の遺言で、半年以内に貴族か上流階級の結婚相手を見つけなければ後継者と見なさないと宣告される。焦る気持ちとは裏腹に、自分に詰め寄る女性たちにはしっくりこず、寂しさから抜け出すことはできなかった。だがサーカスのスター、マルキーズ白羽〈しらはね・ゆり〉さん)と出会い、恋に落ちる――。

 序盤、ジョルジュに迫る女たちを11人の男役が扮するのは迫力があって乙なこと。ただ、効果音などを使い全編に“笑い”もちりばめるが、こちらはいま一つ効果が見えにくい。ところで、運命の二人はパリの街角でぶつかって(!)出会う。マルキーズの元恋人アルガン彩吹真央〈あやぶき・まお〉さん)の存在や身分の差も軽やかに乗り越えてゆくさまに、恋なんて、絡んでもつれてこじれてこそよとつっこみたくなるのは、こちらが擦れてしまったせいなのか。なんて考えさせる辺りも味わいどころ。素直になる難しさと大切さにも触れ、すがすがしい後味を残してくれる。宝塚初心者におすすめだ。

 併演のショー「ミロワール〜鏡のエンドレス・ドリームズ〜」にも触れておきたい。「シング・シング・シング」などを使い、小気味よく引きつける。終盤、出演者たちが青い衣装をまとって水しぶきのようにはじけ踊る場面に瞠目(どうもく)。降り注ぐような清涼感に癒やされながら、早春の宝塚に吹くさわやかな風を楽しんだ。2月4日まで宝塚大劇場。2月16日から東京宝塚劇場。(谷辺晃子氏)