高嶺ふぶきさん

宝塚プレシャスより引用 男でも女でも演じる楽しさは(2007.10.16)

 初演の『エリザベート』は、数々の名演技者を生んでいるが、初代皇太子フランツ・ヨーゼフ役として今も語り継がれる存在が、元雪組トップ男役の高嶺ふぶき。今ではすっかり美しい女優として、テレビや舞台で活躍している彼女に、当時の話と最近作の舞台の話を聞いた。 (取材・文:榊原和子/写真・岩村美佳)
 

高嶺(たかね)ふぶきさん
女優。京都市伏見区出身。
 1983年、宝塚歌劇団入団。『春の踊り/ムーンライト・ロマンス』で初舞台。宝塚歌劇ニューヨーク公演『雪乃丞変化』(94年)、『エリザベート』(96年)等を経て、同年『虹のナターシャ/La Jeunesse!』で雪組主演男役に就任。
97年、『仮面のロマネスク/ゴールデン・デイズ』を最後に退団。
 以後、女優として活躍。退団後の主な舞台に 『ヴィクター・ヴィクトリア』(97年)、『花のうさぎ屋』(98年)、『お気に召すまま』(99年)、『ハウ・トゥー・サクシード』(00年)、『長崎ぶらぶら節』(01年)ほか多数。テレビ番組『金色の翼』(東海テレビ・フジテレビ系列)出演(07年7月〜9月放送)。10月11日より青山円形劇場で上演中の『コースター』に出演中。

インタビュー
  フランツの本当の姿を
―― 初代のキャストは皆さん伝説的な存在になっていますね。高嶺さんもとても素敵なフランツ・ヨーゼフでした。
 この作品のなかではマザコン皇太子とか、いろいろ言われてますけど(笑)、いまだにこの方はオーストリアでは一番人気なんですよね。私が演じた96年当時は、まだ情報があまり日本に入ってきていない状態でしたが、資料を集めたり、たくさんの本を読んだりして、できるだけ史実を知っておこうと思ったんです。この作品で言われているようなことだけ考えて役を作ったら、皇帝として実際に生きて慕われていた方が薄っぺらになってしまう、それでは失礼になると思いましたから。
 『エリザベート』のなかでも、ゾフィーとシシィでは見方が違うのは当たり前ですが、それでもフランツは1人ですから、そのフランツを、実はこういう人でしょ、と出していったんです。

―― それに高嶺さんのフランツは、愛と義務の間で揺れる切なさがあって情があるフランツでした。
 人から見たらマザコンに見えるかもしれないけれど、国の支えとなる役割をきちんと務めなくてはいけない。でも、シシィの言うことも聞いてあげたいし、自分の立場があるし。そういう葛藤をちゃんと見せないといけないのですが、皇帝役ですからあまり感情を出してはいけないし、そのバランスが難しかったですね。
―― 高嶺さんは歌唱力も定評がありましたが、初演ということでまた別の大変さがあったのでは?
 ウィーンの『エリザベート』をもとに、日本のキャストに合わせて音の高さを決めたり、1人1人のパートをそれぞれが自分のものにする作業がまずあって、それが大変でした。それをまたちゃんとした流れにしていったり、ハーモニーにしていく。ですから歌というか音楽をこなすことでみんな必死でした。
―― 実験的な作品に、みんなで取り組んだ感じですね。
 歌で全部がつづられていく作品ですからね。いちばん感じたのは、言葉だったら、ここに「、」があってここに「。」がないとおかしいというのがあって、ではこの音楽の中のどこに、ちゃんと「、」を入れられるか、言葉としてちゃんと成立させるにはどうしたらいいか、ということを自分で探りながら歌っていく、そこがいちばん苦労しました。
 それに最初は原語でずっと聞いていたものですから、日本語になった場合、言葉のアクセントと音程が合わないからおかしい、みたいなことになったり、聞き覚えたものと、実際に自分が歌っているものが違っていたりするのに困りました。とにかく音符の中に言葉をちゃんと当てはめる、そのこと自体がまず課題でした。 ―― そんななかでも、高嶺さんは「寝室の場」や「夜のボート」で、すごく感情をこめて歌われてましたね。
 気をつけたのは、自分が歌ってしまったらいけないということなんです。とにかくフランツ・ヨーゼフという人がそこにいて喋っているように歌おうと。良い声で音程も間違えず歌うのではなく、感情や言葉重視で、そのうえで音楽を大切にしていく、メロディを大切にしていく、それをやろうと思ってました。
―― その『エリザベート』が、今もこんなに人気作品として続いていくと、当時思われましたか?
 それは早い段階で感じました。それまでいろいろな作品をやらせていただきましたが、宝塚の客席ってほとんど女性で、男性はあまり多くなかったんです。でも『エリザベート』の寝室のシーンで、ふと客席を見たら男の方が泣いてらして。そこで「あ、これはもしかしたらいけるかな」と。向こうではヒットしているけど日本ではどうなんだろうと思っていたのですが。そういう意味では、この作品は登場人物の誰かに感情移入して観ることができるし、幅広く支持される要素がたくさんあるんだと思います。
  女性を演じる楽しさ
―― 宝塚を退団されたのは97年で、すぐ女優さんに転身されて、あっというまに女性に戻っていましたね。
 もともと作品によっては女役もしてましたし、あまり抵抗がなく、すんなり変われました。
―― そういえば『雪之丞変化』のお初も綺麗でした。
 女役ってかつらも衣装も綺麗で嬉しいと思っていましたし(笑)、男でも女でも、どちらも芝居をする、人間を演じるという点では一緒ですからね、この役をやってくださいと言われること自体、ありがたいことだと思っていましたから。
―― でも男役のかっこよさもきちんと見せていましたが、男役を演じる楽しさは、今思い出すとどんな感じでしたか。  やっぱり自分の理想の男になれるというか、こういう人がいいなという男性になりきることの楽しさですよね。退団作品になった『仮面のロマネスク』などは、思わずだまされてもいいなというような男性に、ちゃんとしたかったし、けっこうなりきってやってました。
 でも、宝塚の男役で大事なことは、どんな役でも、たとえば汚れ役をやっていても、品というのはなくしたらいけないし、どこかに筋が通ってないといけないと思います。
―― 現在は本物の男性に囲まれて芝居をしているわけですが、かなり違いますか?
 なによりもまずラクですね。宝塚の女役より全然ラクです。女性が演じる男役と並んでちゃんと女らしく見えるためには、より女でなければいけないけれど、本当の男性のなかでは、どんな格好をしようが女性に見えますから。それに多少乱暴な動きをしても、それは乱暴な女性としか見えないわけですから、すごくリラックスしてやれますね。
―― 自分らしくいられる感じですね。
 カンパニーとしても、いろいろなところから集まってきて、それぞれの役割分担みたいなものがあって、それで作品作りが始まっていきますから、いっせいに用意ドンで競い合えるし。逆にここまでやればいいということもはっきりしているので、「自分はちゃんとやりましたから、あとよろしく」ということでもいいわけで、そこは気持ちがいいですね。
―― さて今回の『コースター』ですが、キャストがバラエティに富んでますね。
 私が所属している事務所の企画公演なんです。私の役はファミレスの本部からきたマネージャー。キャリアウーマンで、すごく年下の金子貴俊くんに思いを寄せてもらえるみたいですから嬉しいです(笑)。娯楽作ですから、観て楽しかったという気持ちになれる作品だと思います。
―― 主演の西村雅彦さんと、これまでお仕事は?
 同じ事務所なんですよ。これが2回目かな。あとはラジオで共演したこともあります。
―― 独特の間(ま)のある人でしょう?  天才です! 微妙な間が面白くて、でも、そのなかで何か考えているのがわかるんですよ。それに対してこちらもリアクションしたくなってくる、それが楽しいんです。
―― リアクションできる高嶺さんもすごいですね。
 どうやらボケようとしてるから突っ込んであげようかなとか(笑)。なんとなくわかるんです。ふだんから話したりする機会があるからなのでしょうが。
 でも役者さんとしては、すごくストイックで、客席の空気で演技を変えるなんてことはないんですよ。いちばんベストと思われることを、どんなときでもきちんと維持していく。今日初めて観た人にベストを見せたいと思ってやっているのがわかるんです。
―― コメディの基本って台本を大事にすることだと言いますね。
 アドリブがあるとしても、それはハプニングから流れをもとに戻すためですから。絶対にその作品の背景から出ないし、役からはみ出さないし、時代もはずさない、そういうすごさです。お客さんにウケようと思ったら、何でもしてしまう人もいますけど、そういうのは下品だと思うし、そんなことで笑いをとるのはコメディではないですから。
―― 高嶺さんも、コメディは宝塚時代からお得意でしたから、今回も期待してます。
 なによりも女性がたった2人ですから嬉しいんですが(笑)、メンバーが皆さん達者な方ばかりですから、すごく面白くなると思います。