水に落ちた犬はたたけ

 亀田−内藤戦の生中継をめぐり、中継したTBSへの視聴者からの抗議は、約1500件に及んだ。最も大きな不満は『実況や解説が亀田寄り』だったことに対するものだった。実況を担当したのはスポーツ担当の新タ悦男アナ(33)。解説には元WBAスーパーフライ級王者の鬼塚勝也氏(37)と、元WBA世界スーパーバンタム級王者の佐藤修氏(30)がついた。
 世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチ12回戦は11日、東京・有明コロシアムで行われ、チャンピオンの内藤大助(宮田)が同級14位の亀田大毅(協栄)に3−0の判定勝ちし、初防衛に成功した。
 33歳1カ月の内藤は、徳山昌守が持つ日本ジム所属選手による世界王座防衛の最年長記録、31歳5カ月を大幅に更新した。18歳9カ月と5日の亀田大は、日本人最年少での世界王座奪取はならなかった。
 内藤が日本王者だった2年前から、内藤と亀田3兄弟の長兄、興毅や大毅との間で、対戦をめぐって挑発や舌戦が繰り広げられてきた“因縁の対決”。序盤、亀田はガードを固めて低い姿勢で前へ出る。対する内藤は距離をとって手数を出す展開。パンチらしいパンチを出せなかった亀田は2回終了間際、両手を広げ、舌を出して内藤を挑発した。
 オープンスコアリングシステムにより、4回終了後に採点の途中経過が発表。内藤3−0リードに客席から歓声が上がった。5、6回も内藤が距離をとって手数を稼ぎ有利に試合を進める。3回に切れた内藤の右目尻からの出血が、7回に一時的に多くなり、ドクターがチェックしたが、試合は続行された。
 8回終了後、2度目の途中経過発表で、判定なら内藤の勝利が明確に。直後の9回、亀田はクリンチ中に内藤を投げ倒す。内藤もレフェリーがブレークした際、亀田の後頭部を殴り減点1と取られるなどエキサイトした展開になった。
 その後も内藤が自分の距離から手数を稼ぐ一方、亀田は有効打を当てられない、ほぼ一方的な展開。最終12回に亀田は、クリンチの際に内藤を投げ倒し、減点。直後に、今度は意図的に投げようとし、減点合計3とされるなど、自暴自棄になった。

追加=演出家のテリー伊藤(57)が14日、TBSの情報番組「サンデー・ジャポン」で、11日に同局系で放送された亀田大毅(18)と内藤大助(33)のWBC世界フライ級タイトルマッチについて「実況も最低だった」と批判。

 実況で同局の新夕悦男アナウンサー(33)が「このままだと亀田が勝ちますね」「若さが出ました」などとコメントしたことに「TBSもぬるい。悪いことは悪いと言わないと」と厳しく指摘した。

相手を挑発するパフォーマンスで賛否の渦を巻起こしてきた亀田父子に厳罰が下った。これまで目立っていたのはリング外での言動だったが、世界戦のリングを汚した反則行為の数々に世論は一斉に反発、及び腰だった日本ボクシング協会JBC)も厳罰で臨まざるを得なかった。人気低迷の起爆剤として亀田人気に寄りかかり問題行動の芽を摘み取れなかったJBC、視聴率のとれるタレントのように担ぎ上げてきたテレビ局。ブームに乗った両者にも責任の一端はありそうだ。

 世界戦での反則行為に対し、JBC側は試合当日の11日、処分について明言を避けていた。しかし翌12日、JBCに抗議の電話が殺到し、事態は急変した。「ボクシングではない」「あれでも世界戦なのか」。圧倒的なファンの声を無視するわけにはいかなかった。

 平成15年12月、亀田3兄弟の長男、興毅選手が「秒殺」をうたい文句にKOデビューを飾った。派手なパフォーマンスと個性的言動。あっという間に話題を独占する。人気低迷にあえいでいたボクシング界はブームを歓迎、TBSも亀田一家をタレント扱いした。この扱われ方が亀田一家の増長を促したといえる。

 反則ととれる行為も目立つようになる。昨年3月、興毅選手のKOパンチは明らかにローブローだったし、今年2月、大毅選手は相手にのしかかるようにして強引にダウンを奪っている。技術指南役の史郎トレーナーも昨年9月、大毅選手のノンタイトル戦で観客と乱闘騒ぎを起こし警察から事情聴取されている。

 JBCの安河内剛事務局長は、過去の問題行動が今回の厳罰に加味されたことを認めた上で「威嚇、恫喝(どうかつ)はチーフセコンドにあるまじき行為」と厳しく指摘した。しかし亀田一家を放任した責任については「そんな思いもする」と不作為を認めたものの、「興行面には深く立ち入れない」と言葉を濁しただけだった。

 亀田陣営の試合を独占放送してきたTBSにも視聴率重視のあまりタレント扱いし過ぎた点はなかったか。スポーツ放映のあり方にも一石を投じた形だ。