映画もちょっとずつ変化か。

毎日新聞 2005年4月5日 東京夕刊 「鳥瞰憂歓」より引用。

「映画ファンド」日本でも ファンも…製作参加へ道
 ◇資金調達に急浮上−−「製作委員会」方式より柔軟に

 追い風が吹く日本映画界だが、悩みのタネは製作費。大作志向が強まって製作費は高騰気味なだけになおさらだ。そんな中、投資家から集めた資金を映画製作に充てる「映画ファンド」方式の資金調達が注目されている。打ち出の小づちとなるのか。【勝田友巳】

 日本映画のほとんどは、数社が資金を持ちよる「製作委員会」方式で作られている。1社で作るよりリスクが分散され、確実に資金を集められるのが利点だ。テレビ局、出版社、広告代理店など映画に多少ともかかわりがある会社が中心で、話も早い。だが新参者に壁は厚いし、参加企業が著作権を共有するから、新規事業展開などの折には機動性に欠ける。実際に映画を企画、製作するのは中小の会社なのに、製作委員会から下請けの形になるため権利を持てず、収益分配で不利な状況に置かれるのも問題だった。

 この弱点を補うと期待されるのが、映画ファンドだ。映画になじみの薄い企業や個人にも映画出資を促して、映画製作費全体のパイの拡大を図る。ファンドは契約期間付きなので、権利を製作会社にまとめるのも容易だ。韓国や米国などでは当たり前に行われている。日本では、法規制や手続きの複雑さから敬遠されていた。それが政府の「知的財産立国」構想などの後押しを受けて、制度の見直しや柔軟運用が進み、一気に脚光を浴びるようになったのだ。

 松竹は、「忍−SHINOBI」の製作費の一部を、個人投資家向けの公募映画ファンドで調達した。製作費や宣伝費15億円のうち10億円を目標に1口10万円で募集した。採算分岐点が興収20億円と、日本映画界では年数本しか届かない高水準に設定されているなどリスクが高いが、融資と投資を組み合わせて一定の元本を保証。約1300人から5億220万円が集まった。久松猛朗同社取締役は「手間を考えれば自己資金の方が効率的だった。しかし目的は、映画ファンに製作に参加する道を開くこと」と、成果を強調した。話題作りとしては大成功だ。

 ジャパン・デジタル・コンテンツ(JDC)の「アニメファンド!」も、個人投資家から製作資金を募る方式だ。テレビアニメ「バジリスク」製作費の一部として、1口5万円で2億4000万円を募集し、期間内に約1000人が応募した。利回りの上限が10%に抑えられるなど利益分配の制限付きだが、アニメファンだけでなく一般投資家も多かったという。JDCの浜尾知樹・投資業務部長は「資金不足の優秀な人材に映画製作のチャンスを与え、成功に見合った報酬を確保する仕組みを作りたい。個人投資家にはまだ啓蒙(けいもう)段階だが、将来は株などと同じ金融商品になるのでは」と語る。

 一方、企業相手のファンドも生まれている。「エンタテインメント・ファーム」は、企業から約10億円の資金を集めて製作投資ファンドとし、日本版「リング」などを製作した一瀬隆重プロデューサーの作品に投資する。「エンタテインメント・ファーム」の小谷靖代表取締役は「ファンドを通して、新規参入企業に道を開く」と意義を説明した。

 角川映画の場合は、100%子会社の「日本映画ファンド」を設立し、親しい銀行やゲームメーカーから35億円を集めた。5年間で最低10本の角川映画作品に投資する。こちらは資金プールが目的だ。また、プロデューサーズ・アカデミアが中小企業基盤整備機構などと設立した「インディペンデントフィルムファンド」は20億円を集め、資金力のない中小製作会社支援を視野に入れる。

 ファンド花盛りの勢いだが、法は未整備だしモデルもない。閉鎖的な映画業界には、投資商品としては不可欠な情報開示の習慣もない。投資家にとって映画製作は不透明部分が多く、金融商品としてはリスクが高いのが現状だ。
 しかし、経済産業省メディアコンテンツ課の杉浦健太郎・新映像産業専門職は「コンテンツ市場拡大のため、ファンドは便利な器となる。投資家の理解が進めば発展するだろう。映画をビジネスとして成熟させるためにも、支援したい」と話している。

バジリスク~甲賀忍法帖~(1) (ヤンマガKCスペシャル)

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