産経新聞との対決

【2005/03/26 東京朝刊から】引用です。

ライブドア堀江貴文社長は二十五日、東京・六本木の本社で産経新聞の単独インタビューに応じ、「既存のメディアには恣意(しい)性がある。市民にとっては危険。中に入って変えていきたい」などと持論を語った。新聞の価値については「ポータブル(携帯)性、一覧性、ブランドの三つ。これはネットにはない」と述べた。

 ニッポン放送保有するフジテレビ株をソフトバンク・インベストメントに貸し出したことについては、「契約内容がわからないので、今のところコメントできない」と述べるにとどまった。
                ◇

 ライブドア堀江貴文社長が産経新聞のインタビューに答えた一問一答は次の通り。

−−ニッポン放送株を発行済み株式の50%近くを取得したが、どのような事業に生かしていきたいのか

 「放送局のビジネスモデルに新しい形を考えていかなければいけない。特にラジオをこれから大きく伸ばすには、相当大きな変化がないと難しい。ただ、逆に言うと、そんなに悪くなるわけでもない。いまラジオを聴いてる人がいきなり明日から聞かなくなるわけでもない。デバイスが進化してすべてが入れ替われないと、チャンネル数が増えるわけでもない。だから、(聴取者の)ライフスタイルってそんなに変わらないと思う。そういう意味で言うと、既存事業を大きく変えなければいけないかというと、細かい部分でのブラッシュアップとかはあるだろうし、経営のスリム化は多分、あの会社にとってはすごくいいことだろうなと思う。これは(ニッポン放送の)社員から聞いた話だけれども、一つの新規事業をやろうといっても、取締役が十九人いるから、全員のはんこが必要らしいので」

−−ネットと放送の融合として、ラジオ局を通じて具体的にどういうことができそうですか

 「一番大きいのは、リーチ(聴取者への接触範囲)。たくさんのお客さんを抱えられているわけだから。特にラジオって、インタラクティブ(双方向)に近い。今ははがきよりもほとんどメールだけれども。それをもっとリアルタイムにインタラクティブにやる仕掛けっていうのがあるだろう。どっちにしても固定化した視聴者層がいるわけだから、この人たちをホームページに呼び込んでみたい。今はホームページに呼び込んで何か投稿したい時に使うだけで終わっているが、もったいない。すごくアクティブな、インタラクティブな仕掛けをやりたいユーザーさんがたくさんいるわけで、この人たちは活用すべきなんじゃないかなと思う」

−−平たく言えば、物販につなげるとか、そういうイメージか

 「うーん、まあ物販もそうですけど、それだけにとどまらない。古い考え方から抜け切れてないなと思うのは、いきなり物販とか、いやまあ僕もわかりやすいから物販とかいうけれども、物販だけじゃないと思う。ラジオショッピングをやっていて収益源になっていると思うけれども、これまでの放送の時代はせいぜいショッピングくらいまでしかいけなかったと思うんですよ。会員組織化してどうのこうのってところまでは、なかなか踏み込めなかったと思うんですよね。要は対話の仕方が難しかったから。それは多分、新聞もそうだと思うんですけど。販売店を通してしかたぶん、実際の読者とのアプローチの仕方って難しいじゃないですか。メールとか手紙とかでも来てはいるでしょうけれども。やっぱり、タイムラグがあったりとか、あるいはITリテラシー(情報機器を使いこなす能力)の問題があったりして、いろいろ、完全にお客さんを把握できているわけじゃないでしょう。でも把握できれば、いろんなことができるようになるんですよ」

−−例えば

 「単なる物販ではなくて、まあ多分ニッポン放送さんは今もやられていると思いますけど、共同購入みたいなものもできるし、それこそオークションもできるわけですよ。インターネットのユーザーさんだけで完全にオークションをやると。そこにお客さんを定期的に呼び込む仕掛けとして、番組中でオークション企画をやる。チャリティーオークションとか、いいんじゃないですか。出演者が毎回何か自分の私物を出してくれてもいいわけですし。そういう仕掛けっていくらでも作れるじゃないですか。で、オークションってのは一つの収益源になるでしょうし。それ以外にもラジオでは多分売りにくかった金融商品も経済番組とか金融系の番組なんかをやることによって、お客さんを誘導できる。誘導したあと、そこで売っていく。要はそのリードになるわけですよ」

−−リーチが広がることは事実ですね

 「あとね、もう一つ。既存のラジオの広告ビジネスに関しても、僕はすごく期待を寄せているところがあってですね。うちの方で「ポスレン」っていうオンラインのDVDレンタルサービスっていう、これも新しいビジネスモデルですけど、やってるんですね。これもいまインターFMっていうFM局で、そこで成果報酬型の広告っていうのを出してるんですよ。なかなかその、ラジオの広告が入ってない番組とかがあるんです。そういうところには成果報酬型広告が入り始めている。ラジオショッピングの延長ですよ。自社でやってるラジオショッピングって、自分たちが広告枠を外に売るんじゃなくて、自分たちのために使っているわけですよ。自社広告枠って、テレビにもありますけど新聞もありますよね。この自社広告の枠を使ってビジネスをするっていう意味で言うと、今までは物販しかなかったけれども、物販以外のものを入れてもいいわけです」

−−ところで、活字メディアについてどういうアプローチをとるのか、考えを聞かせてほしい

 「活字メディアの新しいビジネスモデルということですか?」

−−ニッポン放送株を取得することによってですね…

 「ニッポン放送だけではあんまり影響力はないですけど。新聞でいうといま残っている新聞の価値というのは、ポータブル性と一覧性、要はひとめで何が重要なのかわかるということと、紙の持っているポータブル性、そしてブランドの三つだと思う。これはネットにはない価値なんです。逆に言うと、この価値をうまく生かしたい。ネットってひとつの画面でひとつの記事しか読めない。それを全部の記事を新聞みたいに読もうとすることはなかなか難しい。持ち運びがしにくい。携帯電話でそれはカバーができてはいるんだけれども画面はちっちゃいし、中途半端ですよ。私も携帯でニュースをみていますけれども、新聞もやっぱりみるわけ。そこをうまく生かしたビジネスができるんではないかと思っているんです」

−−なるほど

 「捨てているニュースソースもたくさんあると思いますよ。これは例えですが、仏料理のレストランが出しているラム肉の切れ端を使ったジンギスカン料理をやっているお店が札幌にあって、そのジンギスカン鍋はすごくおいしいんです。その考え方と一緒で、新聞が仏料理とするならば、ネットはジンギスカンなんですよね。みなさんがいろいろ取材をして写真も山ほど撮っていますよね、でも写真は一枚か二枚しか使わないと思う。これってもったいないでしょう」

−−ネットなら無制限ということか

 「無制限だし、たくさん並べられるし、音声だって使えるかもしれないし。この記事は重要かもしれないからたくさん紙面をとってくれるかもしれないけれども、違う取材だと五行にしかならない記事になるかもしれない。でも、実際にはたぶん膨大な取材をしていると思う。そのニュースに興味がある人は絶対いるはずだ。世の中に五人しかいないかもしれないけれども、それは価値がある。その人たちにとっては非常に価値のある情報ですよね。それはもったいないじゃないですか。その記事を捨てていること自体が、いままでは紙面の都合があったり、時間の都合があったりして捨てていたものを有効活用できると私は思う」

−−雑誌の取材で「メディアを殺す」という発言があった。どれが重要かという判断をするところに新聞が存在する意味があると思うが、「そうじゃない見方がある」ということを言いたかったのか

 「新聞に関しては、そうです。テレビとかに関しては、またちょっと意味合いが違ってくるんですけど」

−−刺激的な発言にはやろうとすることについていろいろ狙いがあるからだと思うが、真意は

 「刺激的な発言をすることの真意ですか」

−−既存メディアにできないことをやるために「自分たちが既存のメディアを取り込んでそれを殺していく作業も必要なプロセスではないか」といったあたりだ

 「その、ありかたですよね。新聞とテレビでいうのと違いますよね、といったのはまさにそこです。たとえば、新聞の見出しは会社の中の人たちが選んでいますけど、もっと民主主義的なアプローチの仕方もいれるべきなんじゃないですかということです」

−−人気投票的なアプローチということか

 「それもいれるべきでしょうと。すべてがそれにしろと言っているわけではないですよ。けれども、それは必要ですよ。あった方がいいと思うんです。そうでないと、なんだろうなあ、恣意性があると思うんですよ」

 「今回の件で、産経さんの特に夕刊フジさんあたりの報道をみているとすごく偏向している。それは、間違いないと思うんです。それって、やはり経営側からの圧力があると思うし、いみじくもそれはいくつかの新聞社の記者さんがおっしゃってましたから。『俺たちもサラリーマンだからある程度経営側に意向を聞かなきゃいけなくなるんだよ』と。すごく偏向報道されている部分があるわけで、なんでそうなっているかというと、やっぱりそこは人間が選んでいるから。サラリーマンが選んでいるからそれはある程度はしょうがない。けれども、インターネットという選択肢があるわけですよ。別の価値観があるわけだから、利用したほうがいいじゃないですか。でも、それはやっぱり中に入らないと変えられないわけです。だって今やっている人たちからすれば、変える必要がないんだもの」

−−ニュース判断に新聞の価値を感じるが

 「そうそう。だから価値を感じているんだけれども、一方でそれはわれわれ市民にとっては危険でもあるんですよ。メディアが聖域であったのはまさにそこで、だれも火の粉にふれたくなかったから、誰も手を出さなかったわけで、それは逆に言うと政治家ですらビビッてしまうような聖域と化していたわけじゃないですか。人間は生きていけばいくほどしがらみが増えていくし、たくさんの汚点、みられたくないものを抱えていくわけです。汚れていくわけですよね。私のようにしがらみもない、若い分あんまりよどんだところがないから、(メディアの)中に入っていって「メディアを殺す」とかいう発言ができた。そこなんですよ。新たな価値観を植えつけないと、(メディアは)変わっていかないでしょ」

−―いまでもそういう気持ちは変わらないんですか

 「うーん、うんうん(沈黙)」

−―いまでもメディアを変えていこうという気持ちは変わらないんですか

 「(メディアは)変えていかないといけないと思いますよ。だって、それはやっぱり市民にとって、ものすごく危険ですもの。別に全部がなくなれって言っているわけじゃないですよ。ただし、やっぱりお互いに拮抗した立場じゃないとフェアじゃないですよね」

 「産経新聞でね、堀江支持のコメントがひとつも出てこないというのは、新聞をすべて比較して読んでいればわかるわけですよ。おかしい、どう考えても産経新聞はおかしいって。(比較して読めば)わかるんだけれども、誰もそんなことをするわけないじゃないですか。一般の人が新聞を五紙もとっているわけがないわけですよ。だいたい一紙しかとらないわけですよ。一紙しかとっていない人は、『なんて堀江はひどいやつだ』と思っちゃうかもしれない。産経新聞だけを読んでいたら。それは非常に危険なことですよ」

 「まあ、産経新聞のオピニオンはこうだと、しかし世間はこうみている、インターネットはこうみているというふうに、対比がないとやっぱり(読者は)自分だけでは考えられないですよ。私は、もしかすると、対比をしている部分(世間やインターネットのこと)が勝っていって、いままでのような仕組みがほとんどなくなってしまうかもしれないし、ある程度価値を感じて残っているかもしれない。全部なくなるってことはないでしょうけれども

 (広報担当者が「時間ですので、よろしいでしょうか」というと同時に堀江社長は席を立ち、ドア方向に歩き始める)

 −―ニッポン放送が持つフジテレビ株を借り受けたソフトバンク・インベストメントの件についてどうみてますか

 「それはちょっと、契約内容がわからないので、いまのところは何もコメントできないですよ」

 (広報担当者「それは会社の方でコメントを出しています」)

 産経側の反論↓

産経新聞では二月十五日以降、ライブドアに対し、電話と電子メールで再三にわたり堀江社長へのインタビューを申し込んできた。今回、初めてインタビューが実現したが、時間が十五分間に限られたため、メディア論を聞くにとどまった。
 この中で堀江社長は、産経新聞に「堀江支持のコメントが一つも出てこない」と述べているが、産経新聞ではライブドア側の考えを的確に伝えるため、二月十九日と三月一日の二回にわたり、共同通信による堀江社長のインタビュー記事を全文掲載した。折に触れて有識者らの見解も紹介しているが、ライブドア側を支持、あるいは評価する意見も掲載している。
 また、ニッポン放送株問題をめぐる大きな動きがあれば、ライブドアのコメントを掲載してきた。

産経新聞3月20日号より5人の識者のうちのひとり。

東海東京証券 マーケットアナリスト 鈴木誠一

 ■経営者と株主の接点希薄

 ライブドア堀江貴文社長は「時代の寵児(ちょうじ)」だと思う。今でこそ奇異な行動にみえるかもしれないが、これから先十年、二十年後には当たり前となることを先駆けてやっている。日本でのM&A(合併・買収)の取り組みは、欧米に比べて遅れているのだから。

 今回のライブドアフジサンケイグループに関する一連の報道については、企業間の市場のルールにのっとった取引上の話を、興味本位的な記事として扱っているのが問題だと思う。マスコミ全体としては、フジサンケイグループ側に寄っているが、世間の見方は、ライブドアの方に寄っているという印象を持っている。

 フジテレビとニッポン放送は、いずれも上場企業という立場であるのにもかかわらず、経営者と株主の接点が希薄なようにみえる。フジテレビとニッポン放送には株主を意識して企業価値を向上させる努力が足りなかったのではないか。それが、問題がさらにこじれていった原因に思える。

ニッポン放送に対するライブドア敵対的買収は、市場をめぐる企業行動の倫理観や危機管理について、さまざまな問題を提起している。こうした敵対的買収は「時代の流れ」なのか、それとも「市場原理主義の暴走」なのか。ライブドア堀江貴文社長は「新しいタイプの投資家」なのか、それとも「脱法的な若者」なのか。5人の識者に意見を聞いた。
経済アナリスト 森永卓郎氏 東京経済大学教授 若杉敬明氏 漫画家 弘兼憲史氏 放送プロデューサー デープ・スペクター氏 の4氏はフジ側でした。