決戦⑨

 毎度、「毎日新聞」の下記引用ですが、どうもこの会長の物言いは好きになれないな。えらそすぎです。高飛車に出て転ぶ輩が増えていることに早く気づくべきですね。 

 フジサンケイグループ創業者一族の鹿内家が、所有していたニッポン放送株を譲渡した大和証券SMBCに対し、法令違反があったとして株式の返還を求めている問題で、フジテレビの日枝久会長は7日朝、フジテレビによる同放送株の公開買い付け(TOB)に全く影響がないとの認識を示した。TOBは同日、締め切られる。

心地よい論説をみつけたので毎日新聞 2005年3月6日 東京朝刊より引用

市場ガバナンスと宰相=論説室・玉置和宏
 一国の経済の基本を揺るがしかねない巨大企業トップの違法行為にその国の宰相がいかなる反応をするものなのか。
 いつも自信たっぷりなブッシュ米大統領が青ざめたのを見たのは02年6月のカナダだった。カナナスキス・サミット(主要国首脳会議)の最終日の朝の記者会見。随行の米人記者から、発覚した巨大企業ワールドコム不正経理に厳しい質問が集中した。
 「許しがたいことだ。経営者が米国でビジネスするなら株主と従業員のためにすべての経営情報を公開すべきだ」。口を震わせたのは米資本主義の命ともいうべき市場統治(マーケット・ガバナンス)が問われていたからだ。

 それが頭に残っていたからか、先日「世界的富豪」堤義明前コクド会長が逮捕された時の小泉純一郎首相の記者会見には驚いた。
 「個別の事件で(言及は)差し控える。堤氏とは以前から親しくおつきあいさせていただいている」。穏やかな表情でまるで他国の事のようである。親しいからといってそれがどうしたのか。米国の大統領のように日本の株式市場のガバナンスに体を張って責任を持つ。それが世界第2位の資本主義国の宰相としてのコメントでなければならぬ。これでは「日本はクローニー(縁故)資本主義だ」と批判されるのも仕方がないではないか。

 アダム・スミス国富論の有名な一節を思い出した。「個人の利益を目指す投資が見えざる手に導かれて社会の利益を促す」
 230年後にアラン・グリーンスパン米連邦準備制度理事会議長が「市場はいかなる賢人の知恵も超える」とその言葉の正しさを証明した。だがそれは「見えざる手」が正しくガバナンスされているのが大前提だ。
 堤前会長の「犯罪」は資本主義に不可欠な個人の欲望によるものではない。個人の利益を遥(はる)かに超えた卑しきグリード(貪欲(どんよく)さ)とさげすまれても仕方がない。
 歴史家マックス・ウェーバーは資本主義が発展するには禁欲的倫理が必要になるという逆説を主張して西欧世界を驚かせた。「何でもあり」という個人の欲望を抑えることがむしろ資本主義を発展させるというのである。
 この85年前の非常識と思われた論文はやがて常識になりいまやそれは経済法の基本にもなった。代表的なものの一つは堤前会長が違反したとされる証券取引法である。市場の公正さを担保するガバナンスが備わっていなければ企業と投資家と従業員の持続的な発展がないからだ。そういえば03年の仏エビアン・サミットでシラク仏大統領が3日間の記者会見で欠かさず強調したのも「人間の顔をした市場」の重要性だった。倫理観のない貪欲さがかえって資本主義を壊すという警告である。
 このグローバル市場に何周も遅れた経営者と創造的破壊を目指す若い経営者が交錯する時代になった。米欧に比べ改めて政治家の資格と素養を考えさせられる。(次回は20日に掲載) ホームページはhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/sui/