宝塚歌劇・ベルリン公演


 「宝塚歌劇支局」より。

 【ベルリン、薮下 哲司特派員】「皆様、たくさん楽しんでいただけましたか」大きな羽根を背負った紫吹淳(しぶき・じゅん)さんが、この日のために特訓した流暢(りゅうちょう)なドイツ語であいさつしようとするが拍手できっかけがつかめない。大きなゼスチャーで制止して、やっと「ダンケッシェーン!(ありがとう)」を歌いはじめると、観客も総立ちとなって手拍子で合唱。1938年、宝塚が初めて海外公演を行って以来62年ぶりのベルリン公演初日は、舞台と客席が一体となった感動的な幕切れとなった。

 宝塚歌劇団ドイツ、ベルリン公演が、2000年6月24日、東地区の老舗レビュー劇場フリードリッヒ・シュタットパラスト劇場で開幕した。「ドイツにおける日本年」最後のビッグイベントということもあってディープゲン、ベルリン市長らの顔も見える中、日本からかけつけた熱心なファンを含めた約1800人で超満員に膨れ上がった客席を前に、紫吹淳はじめ51人のタカラジェンヌはドイツ語のあいさつや歌を交えた華やかなステージを展開してベルリンっ子を魅了、大きな拍手を浴びた。

 午後8時、舞台はまず第1部のオリエンタル・ファンタジー「宝塚 雪・月・花」(酒井澄夫氏作、演出)が開幕。のっけから勇壮な祭り太鼓の連打で客席を圧倒。水夏希(みず・なつき)さんらが扮する海の男たちが歌うソーラン節など、テンポのある踊りに大きな拍手がわき、貴城けいが女役に扮する紅葉狩りなどを盛り込んだ日本の四季をテーマにした美しい日舞絵巻では珍しさも手伝ってか、食い入るように見入っていた。終了後のロビーで声を拾うと「花火のように素晴らしかった」などと一様に好意的。

 休憩をはさんだ第2部のグランド・レビュー「サンライズタカラヅカ」(岡田敬二氏作、演出)は、まず45人のダンサーたちが一斉に三点倒立して度肝を抜いた。しかし、受けたのは意外や宝塚独特の男役のキザなポーズ。「キャリオカ」などで紫吹さんがかっこよく決めるたびに歓声があがる。水さん、貴城けい(たかしろ・けい)さんのベルリン公演ならではのコンビも魅せた。とりわけラスト近くのゴスペルの大合唱の「ウオーッ!」という歓声とともに反応がすごかった。

 特注の大階段を使った宝塚独特の華やかなフィナーレでは、自然に手拍子がわくほどで約1時間の夢のステージはベルリンっ子を完全に魅了した。幕がおりても拍手が鳴り止まず、客席総立ちのアンコールとなった。

 終演後、紫吹さんは「お客様のパワーをもらってこれからも頑張りたい」と初日の感想。覚えたてのドイツ語で「トオイ、トオイ(これからこれから)」と身を引き締めていたが、その表情は底抜けに明るかった。植田紳爾理事長も「こちらの予想以上に喜んでもらえた。みんなもひとまわり大きくなってくれるでしょう」と成功の実感をかみしめていた。

 なお、公演の模様は2000年7月1日、NHKが衛星で生中継する。


第一部 オリエンタル・ファンタジー「宝塚 雪・月・花」

■第一場〜三場 祭り(春)
勇壮な祭り太鼓や獅子舞も加わり、日本の代表的な祭りで幕開け。
祭りの男S:紫吹淳さん 祭りの男A:祐輝薫さん、楓沙樹さん、寿つかささん、貴城けいさん、水夏希さん、霧矢大夢さん

■第四場 さくら
浮世絵の女が桜の咲きほこるところで舞踊る。
浮世絵の女:松本悠里(まつもと・ゆり)さん

■第五場〜六場 花田植え(夏)〜雨
早乙女達が田植えを祝い、雨を請い踊る。

■第七場 大漁踊り(波)
大きな波のセット。櫂を持った漁師たちが威勢よく踊る。
漁師S:紫吹淳さん、漁師A:水夏希さん、霧矢大夢さん、真飛聖さん、蘭寿とむさん


■第八場 七夕(灯篭)
天の川、満天の星空に六人の芸者が夕涼み風情で踊る。


■第九場〜十一場 紅葉狩(秋)
一面の紅葉のセット。若き侍(公達)と郎党たちが紅葉の中で繰り広げる不思議な幻想シーン。
公達:紫吹淳、武者:楓沙樹、霧矢大夢 姫:貴城けい


■第十二場〜十三場 雪(冬)
雪がやさしく降り、段々激しく降りしきる。
鷺の精:松本悠里さん


■第十四場〜十七場 慶長の春(フィナーレ)
冬が去り艶やかな彩りの衣装と共に花咲く春になる。
若衆S:紫吹 淳、美女S:松本悠里
美女A:貴城けいさん、紺野まひる 若衆A:楓沙樹、水夏希


第ニ部 グランド・レビュー「サンライズタカラヅカ

■第1・2場 オープニング・サンライズ 〜鴨川清作:「ヴァイブレーション」より
ゴールド・シンガー:出雲綾、サンライズ・ダンサーS:紫吹淳
サンライズ・ダンサーズ:楓沙樹、貴城けい水夏希 ほか


■第3場 サンライズタカラヅカ


■第4場 ウェルカム・トゥ・タカラヅカ
フォーメイション・ダンスでみせる明るく楽しいダンス・ナンバー。
紳士S:紫吹淳 紳士:祐輝薫、楓沙樹、寿つかさ貴城けい水夏希霧矢大夢 ほか

■第5・6場 花占い
花占いの少女:紺野まひる

■第7・8場 メッセージソング
歌手:出雲綾、未来優希


■第9・10場 誕生
誕生の歌手:紫吹淳、バードの歌手:朝宮真由、真丘奈央、秋園美緒、美椰エリカ

■第11場 ディス・イズ・タカラヅカ(映像によるタカラヅカの紹介)

■第12・13・14場 ハードボイルド
大都会の孤独・焦燥をダンスと歌で表現
ハードボイルドの歌手:紫吹淳


■第15場 間奏曲(1)
シンガー:貴城けい、未来優希

■第16・17・18場 キャリオカ(ラテンナンバー)
キャリオカの男S:紫吹淳、キャリオカの女S:舞風りら

■第19場 間奏曲(2)
シンガー:楓沙樹、ガール:西條三恵

■第20・21場 明日へのエナジー
ゴスペル・シンガーS:紫吹 淳、シンガーA:貴城けい、水 夏希

■第21・22・23・24場 フィナーレ
エトワール:秋園美緒、紳士S:紫吹淳





《一口メモ》

 初日公演の直前、本番通りの通しげいこが同劇場で行われた。本来はマスコミだけに公開するだけだが、この日、劇場側のアイデアで市内各ホテルのコンシェルジュや劇場関係者の家族はじめ約1500人を招待した。観光客にPRしてもらおうという作戦だったが、これが見事に的中した。ほとんどがドイツ人だったがその反応が予想以上によく「素晴らしかった」「伝統芸能のショー化に感動した」などと非常に好意的。フィナーレでは自然にスタンディングとなり、こちらも感動の幕切れとなった。現在前売りは70%の売れ行きだというが、これで一気に口コミがききそうだ。

 初日終演後、夜11時すぎから宿舎のホテルで初日の打ち上げパーティーが開かれた。紫吹はじめ出演者全員のほか、ドイツ側からはシュテルツルベルリン州文化相、イリンスキー劇場支配人、日本側からは久米邦貞駐独日本大使、小林公平阪急電鉄会長はじめスタッフが出席した。小林会長が「日独の新しい親善が始まった」と感謝するとシュテルツル氏は「ヨーロッパの文化の中心がベルリンになった象徴的なイベント」さらに「女性は男を演じるのにふさわしい」とジョークまじりで感想を話した。サインと握手ぜめとなった紫吹は「みなさんのパワーをもらってこれからも日々向上していきたい」と応えて出席者の大きな拍手を浴びていた。