なぜ増える電気系の鉄道トラブル 人材難が遠因?

2017/11/15 14:29日本経済新聞 電子版

 鉄道トラブルに異変が起きている。運転見合わせや遅延の原因といえば「人身事故」「大雨・強風」と相場が決まっていたが、最近増えているのは「停電」や「架線障害」といった電気系のトラブルだ。15日午前も東急田園都市線で架線障害が発生し、渋谷―二子玉川間で約4時間半、上下線の運行が止まった。鉄道現場にいったい何が起きているのか。


ツイッターでは、15日午前の田園都市線のトラブルへの不満のつぶやきが相次いだ(画像は一部加工しています)
■飛び交う怒号と悲鳴
 「またか、ふざけるな」「人気アトラクションより長い行列ができてる」「東急は遅延証明書を日めくりカレンダーで作れ」「体がちぎれる」――。15日の田園都市線のトラブルは朝の通勤・通学ラッシュを直撃。ツイッターでは現場に居合わせた利用者の怒号と悲鳴、焦りの声が飛び交った。架線障害が起きたのは池尻大橋駅近くで、東急では原因を詳しく調べている。

 田園都市線では10月19日にも停電が起きている。9月5日には埼玉県内の変電所の障害でJR東日本の山手線、京浜東北線埼京線が一時運転を見合わせた。9月12日には東京モノレールでも停電トラブルがあった。

 電気系トラブルが多発している遠因として、現場の人材難を挙げる声が関係者からは出ている。変電所の点検や架線工事は電鉄本体が直接行うのではなく、電気設備子会社や専業の下請け業者が手掛けるのが一般的。電鉄会社は就職先として人気があるが、現場作業が中心となる電気設備会社は、重労働とのイメージが強いため、なかなか若い人材が集まらない。一方で、設備の点検作業を仕切っていた年長者が定年退職で大量に引退している。人員構成に崖ができた結果、技術伝承が滞り、初歩的なミスが多発する構図だ。

 実際、9月5日のJR東の変電所トラブルでは、作業員の単純な作業ミスが原因だった。定められた手順を踏まず、電気を止めないままスイッチ類の点検をしたところ、地面に過大な電流が流れ、センサーが異常と判断。変電所全体が停止する事態となった。

■意欲のある若者が集まらない
 現場人員の総数の不足もさることながら、意欲のある若者の不足がより深刻だとの指摘も多い。工学院大の高木亮教授(電気鉄道システム)は「(電気設備会社に)能力のある人が十分に供給されていない。入社する学生の知識の欠如もみられる」と話す。北関東にある専業会社の総務担当者はこうこぼす。「従来なら資格試験に合格して管理職を目指すのが当たり前だったのだが、今は試験を受けようとすらしない者が増えている」

 変電所の点検業務を主管するのに必要な国家資格として「1級電気工事施工管理技士」があるが、この合格者数も低迷中だ。試験を実施している建設業振興基金によると、合格者数が最も多かったのは1988年度の1万3008人。バブル崩壊後から減少傾向が強まり、2014年度は5110人まで落ち込んだ。ここ数年は回復傾向にあり16年度は7336人だったが、それでもピークの4割減だ。

 電気工事施工管理技士だけではなく、電気保安関連の資格者の不足が今後顕在化するとの予測もある。経済産業省が今年3月にまとめたリポートによると、シニア層の退職などにより20年ごろから電気工事士1種の資格者が約4万人、同2種は約1万人、不足するという。

 当の電気設備会社も危機感を募らせ、人材確保と育成に躍起だ。JR東海グループの新生テクノス(東京・港)では新卒採用を増やすため「数日のインターンシップを開き、現場の社員から話をしてもらうなど、学生に魅力ある職場であることを伝えている」(総務部)。リニア中央新幹線にかかわる先進的な仕事もあることも打ち出している。東栄エンジニアリング(さいたま市)では「資格は不問。来てくれたら、当社で一生懸命育てます、という点を若い人たちにアピールしている」(担当者)という。

 ただ、人材争奪戦は業種間の壁を越えて激しくなっている。公共インフラの安全を守る現場力をどうしたら維持できるのか。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や人工知能(AI)の活用など、人材に頼らない方法もフル活用すべき時期にきている。

■半年間の主な運転見合わせ事例
・山手線・京浜東北線(5月24日、人身事故)

東海道・山陽新幹線(6月21日、停電)

北陸新幹線(7月1日、大雨の影響)

東海道線(7月26日、架線から火花)

・山手線(8月28日、人身事故)

・山手線、京浜東北線埼京線(9月5日、停電)

東京モノレール(9月12日、停電)

東急田園都市線(10月19日、停電)

・千代田線(10月25日、線路から発煙)

東急田園都市線(10月27日、車両床下から煙)

南海本線(10月31日、台風21号の影響)

山陽新幹線(11月4日、線路に立ち入り)

東急田園都市線(11月15日、架線トラブル)

(石塚史人、原欣宏)