災害: 自然の猛威に 身を寄せながら励まし合う。

=2017/07/06付 西日本新聞朝刊=

たたきつける猛烈な雨は、瞬く間に大量の濁流となり街を、集落をのみ込んだ。5日、九州北部は局地的な豪雨に見舞われ、福岡、大分両県で43万人を超える住民に避難指示が出された。行方不明者の情報も相次ぎ、福岡県朝倉市東峰村などでは孤立した地域も。「人が車ごと流されている」「5年前の九州北部豪雨より怖い」。住民は不安に震えた。


【動画】濁流が流れる河川(JA田川彦山出張所付近)


 福岡県朝倉市木星丸の松末(ますえ)小。山あいにある学校なのに、5日午後6時すぎには、校庭に止めていた車のボンネットの高さまで冠水した。誰もが、信じられない光景だった。


 体育館に避難していた小学生や地域住民約50人は、校舎3階に急いで駆け上がった。窓の外を見ていた子どもたちが「学校の前を白い車が流されている」と声を上げ、詰めていた警察官に伝えた。「車の中には(助けを求めて)手を振っている人がいた」。だが、みんな身動きが取れない。車の行方は分からなくなった。


「人が車ごと流されている」避難の小学校孤立、震える子ども 福岡・大分記録的豪雨


 激しい雨は降り続く。雷が鳴り、そのたびに約20人の子どもたちは震えた。携帯電話で家族らと連絡を取り合う大人たち。教室は停電して徐々に暗くなった。「携帯電話の電池はどれだけ持つだろうか」と不安の声が漏れる。女児は怖がって保育士に抱きついている。学校には警察官4人が付いており、「みんなで頑張ろう」と励ます声が教室に響いた。学校前の赤谷川は、茶色の水があふれ返り、流木が近くの住宅に突き刺さっていく。校庭にも流れ込んできた。


 校舎の1階が冠水する数十分前まで、松末小から坂を下り数百メートルの松末地域コミュニティセンターの事務所に、地域住民ら約10人がいた。すぐそばを赤谷川が流れ「このままではここものみ込まれる」と一緒にいた警察官が警告し、学校に移動してきた。このとき、川沿いの道路を流れる濁流は膝上の高さまであり、国語辞典や丸太、ビールケースなどが次々に流されてきた。警察官は70代の女性を背負い、学校に向かった。普段は5分程度で着くのに15分はかかった。


 センターで行った安否確認の電話で、地域内にある乙石集落では3人が残されていたことが分かった。センターの住民は、取り残されていた人たちに「警察と自衛隊に救助を要請しとるけん。無理をしたらいかんよ」と呼び掛けていた。どうなったのか−。


 校舎が冠水して周囲との行き来はできず、完全に孤立した学校。午後7時半すぎには、子どもが怖がらないよう、暗くなった教室内を懐中電灯で照らし、疲れた児童らは不安を押し殺すように横になった。「とにかく、早く降りやんでほしい」と松末地域コミュニティ協議会の男性。誰もが祈る気持ちで、やまぬ豪雨を見詰めるしかなかった。