愛国者?(右翼)の逃亡

WEBRONZAより引用

 森友学園事件の報道が始まって2週間ほどたった2017年3月はじめ、テレビのワイドショーでは何度も「教育勅語」を唱和し、軍歌を歌い、「安倍首相ガンバレ」を宣誓する塚本幼稚園の動画が流された。偶然乗ったバスに座っていた老婦人二人が上のような会話をしていて驚いた。


 その週のうちに、タクシーの運転手さんや、理髪店の大将、病院の待合室の高齢者、居酒屋の隣のテーブルにいた背広サラリーマン御一行、サウナのおじさん――などなどのおしゃべりに塚本幼稚園の話題が出てきたのを目の当たりにした。これまで現政権下の「復古調」にはなんの興味もなかったような人びとが、世間話レベルで違和感を表明している。


 世論はつくられるのだなあ……という感をあらたにしたが、統制された子どもたちの異様な動画のインパクトも大きく作用して「なんか最近おかしくないか?」という率直な不安感もまた醸成されていると感じる。

 とりわけ「安倍晋三記念小学校」というネーミングや、現職首相夫人が名誉校長をつとめていた
ことが報じられるにいたって、政権中枢そのものがおそろしい劣化・退化をきたしているのではないかと予感した人も少なくないだろう。

 こうした世間の空気を敏感に読み取ってか、これまで森友学園・塚本幼稚園を応援してきた保守系文化人たちが一斉に遁走するという珍事も引き起こされている。

 そもそも安倍晋三首相からして、「いわば私の考え方に非常に共鳴している方でですね」「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしいという話を聞いている」と国会答弁で述べていたにも関わらず、数日後には「非常にしつこい」「教育者としてはいかがなものか」と、見事な手のひら返しを見せてくれた。


 この無情な急転向をお手本にしてか、かつてこの幼稚園に講師として招かれた百田尚樹曽野綾子平沼赳夫青山繁晴竹田恒泰渡部昇一櫻井よしこ中山成彬といった人びとが「推薦人に名前を勝手に使われた」(竹田恒泰)と見苦しい言いわけをくりだしたり、森本学園については公式にはいっさい言及しない(櫻井よしこ)などの沈黙を決めこんでいる。


 こうした「愛国者」たちの無情ぶりを、森友学園事件はみごとに浮き彫りにしたと言えよう。政局の行く末よりも、社会的な意識を変化させたことのほうが意味は大きい。

 

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