天皇陛下の御心に背く結論


毎日新聞より引用

 安倍晋三首相の私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の論点整理が公表され、天皇陛下の退位に向けた動きが前進した。だが、今の陛下に限り退位を認めるとの方向性が強まっていることに、元側近や学友から「陛下の真意が取り残されているようにみえる」との声が上がっている。【高島博之、山田奈緒


 陛下を身近で支える侍従や侍従次長などを1995〜2012年に務めた佐藤正宏さん(75)は、退位を認める流れについて「象徴としての活動を全身全霊でなさることができる状態で、途切れることなく次の世代につなげられる」と安堵(あんど)する。一方で、論点整理が一代限りの退位を実現する方向に傾いている点は「必ずしも議論が万全ではないように思う」と指摘する。「陛下は積極的に人々と言葉を交わし、心を通わせることを大切にされ、象徴天皇の在り方をそこに求めてこられた。いまの議論は、象徴天皇の在り方といった本質的な議論が深まらないまま進んでいる」

 
 <ご高齢で大変そう><ゆっくりしていただきたい>……。陛下へのこうした声は、「感情論」に聞こえると佐藤さんは言う。「陛下は感情論ではなく、国民の要請に応えながら安定した皇位継承を確保するため、制度はいかにあるべきかを考えてこられたと思う」


 学習院高等科まで陛下の同級生だった明石元紹(もとつぐ)さん(83)は、「皇室典範の改正で退位を制度化することを望んでおられると思う」と話す。陛下は昨年8月8日のおことばで「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」と述べた。このことを明石さんは「自分が疲れたから辞めさせてほしいと言っているのではない」と受け止めている。


 明石さんは昨年7月21日夜、陛下と電話で話した。陛下は退位について「国のための制度がある以上、合理的でいつも変わらない形にならないと意味がない」と述べたという。明石さんは「こうした考えが理解されないまま議論が進むことへの危機感」を抱き、電話の内容を報道機関に明らかにした。「今回も、次の天皇の時も、一代限りで対応すればよいというのではあまりに皇室の存在を軽視している。将来に向けて皇室のあり方を真剣に考えてもらいたい」と話した。

 
ジャーナリストの田原総一朗さんの話 高齢化は今の天皇陛下に限った問題ではなく、皇室典範改正で対応すべきだが、実現には時間がかかる。特別立法で対応しながら改正に向けた準備をする二段構えの議論が必要ではないか。有識者会議は、陛下の意向を受けて直接政府が動いたとの形にしないための議論の場だ。「一代限りの退位容認」という流れは予想されたが、今後も安定した皇位継承には女性天皇などを含めた議論が必要だ。


 横田耕一・九州大名誉教授(憲法学)の話 有識者会議では、憲法に規定された天皇の公務と、実際の活動内容について、国民に理解が広がらないまま識者それぞれが望ましい天皇像を語っている。現行制度と現状のずれについて議論を尽くしてこそ制度をどうするかの検討に進めるはずで、今の議論は拙速だ。このまま一代限りの退位を認めることになると「陛下のわがまま」という印象が残り、陛下に失礼だ。