終息が望ましいが・・

日本経済新聞

熊本地震、直下型の常識覆す 専門家に聞く

 14日以降、熊本県の熊本地方で起きた地震は、距離の離れた阿蘇地方や大分県地震を誘発した。内陸の活断層が起こす直下型地震は影響が一部地域にとどまる例が多いが、大きな地震が相次ぐなどこれまでの常識や経験則を覆す事態が発生している。「連鎖地震」は他の地域でも起こりうるのか。四国などさらに広範囲に波及する恐れや、懸念される南海トラフ巨大地震への影響はあるのか。専門家に聞いた。


■東大地震研教授・古村孝志氏 「連鎖地震」他の場所でも


 地震が続く熊本県から大分県にかけての一帯は「ひずみ集中帯」といえる地域だ。定常的に(南北に)地盤を引っ張る力が働く別府―島原地溝帯に沿って多くの断層が集まり、大きな地震が心配されていた。

 14日の最初の地震はその後の震源解析や余震分布などから日奈久(ひなぐ)断層帯で起きたことがわかった。余震が活発なので南西側や北東側に広がるのではないかと懸念していたら、実際に(北側の)布田川(ふたがわ)断層帯マグニチュード(M)7.3の地震が起きてしまった。

 本当にこれでおさまるかどうかが危惧されている。日奈久断層帯の南西側や東側に広がる心配もあるし、16日未明の地震の後、阿蘇地方や大分県側の別府―万年山(はねやま)断層帯でも地震が誘発されている。


 大きな地震が起きて断層が滑ると、その動き方によって周辺の地盤の力のかかり方が変わり、地震が起きやすくなる場所が出てくることがある。ひずみがたまっていなければ地震は起きないが、地震の「最後の一押し」になることもある。

 ただ、地震によって起きる力のかかり方の変化は、距離が離れるほど急速に減る。今回のようなM7級の地震で数十キロメートル離れた場所まで大きな影響を与えるとは考えにくい。強い揺れはより遠くまで伝わるが、何が阿蘇地方や大分県側での地震を誘発したかは現時点ではわからない。

 2011年に起きたM9の巨大地震である東日本大震災は、周囲で多数の地震を誘発した。こうしたことをM7級の内陸型地震で観測するのは初めてといってよいだろう。

 ある断層で起きた地震が周囲に乗り移ることがあるとずっと心配してきたが、実例はほとんどなかった。それが今回起きたことで、他の断層にどう影響して誘発するのか、どのように連鎖するのか、仕組みを理解する鍵になる。同様のことが起こりうる場所は他にもたくさんあるはずだ。


 ▼直下型地震 内陸の断層が動くタイプの地震で、震源が浅い。震源が都市に近いとマグニチュード(M)6〜7程度でも大きな被害をもたらす。1995年の阪神大震災が代表例だ。
 陸地や海底の岩盤が長年の地殻変動で、じわじわと押されたり引っ張られたりしながらできた大きな裂け目が断層だ。このうち今から約200万年前までの間に繰り返し動いていると一般的に活断層とする。周囲から加えられた力がたまり、耐えられなくなると断層が一気にずれ動き、地震が起きる。
 政府の地震調査研究推進本部は主要な活断層帯として97カ所を選び、地震の発生確率を計算して公表している。今回の地震で注目された布田川断層帯や日奈久断層帯、別府―万年山断層帯も主要な活断層帯に含まれていた。
 ただ1つの活断層で大地震が起こる間隔は1000年から数万年と長く危険度の評価は難しい。