日経 社説

五輪に水さすエンブレム問題  2015/9/2付

 7月に発表されたばかりの2020年の東京五輪パラリンピックの公式エンブレムが、白紙撤回される異例の事態である。原作者の佐野研二郎氏が、他作品を模倣したとの疑惑はあくまで否定しつつ「五輪のイメージに悪影響が及んでしまう」などとして提案自体を取り下げた。  
 

 すでに、一部のスポンサーなどはCMなどに使い始めており、影響は大きい。大会組織委員会は適切な対策を講じるとともに、世界中からアスリートやファンを迎えるにふさわしい、新たなデザインを早急に決め、信頼の回復を図るべきだ。


 エンブレムは、発表直後からベルギーの劇場側が「盗用だ」と指摘し、国際オリンピック委員会を相手に使用差し止めを求め、提訴していた。


 佐野氏は一貫して「事実無根」と独自性を強調し続けた。組織委も先月28日、原案や最終案を提示しつつ、修正の理由を説明して、疑惑を否定したばかりだった。


 専門家の間でさえ「あるデザインが模倣か否かの判断は極めて難しい」という。まして、一般国民の理解を得るのはさらにハードルが高い。


 インターネット上にはエンブレムの公表以降、佐野氏の他の作品も含め「似ている」との声が満ちあふれた。そうであればこそ、選考や修正の過程を含め、組織委は一連の経緯を迅速、かつ丁寧に開示すべきだったのではないか。


 エンブレムを選んだ審査委員らは模倣に否定的な見解という。しかし、組織委は1日の会見で「国
民の支援がないものを使い続けることはできない」などとして、佐野氏の申し出を了承した。やむを得ない判断だろう。

 的確な情報の公開もなく、説明責任もなかなか果たされず、司令塔役も不在とは、先ごろ、整備計
画のまとまった新国立競技場をめぐる混乱の二の舞いである。


 こんな体たらくが続いて、五輪を祝福するムードにかげりがでることを心から憂慮する。