橋・公の終わり 公明党は人の道をはずれている?

 橋下徹大阪市長日本維新の会共同代表)が出直し市長選に踏み切った要因の一つが、市政運営などで一定の協力をしてきた公明党との関係に亀裂が入ったことだ。

 「分かりました。市長を辞めます」

 大阪都構想の制度設計を話し合う法定協議会を翌日に控えた1月30日夕方、市長室で、橋下氏はしばらく沈黙した後、向き合う公明市議団幹部に言い放った。

 市を特別区に分割する四つの区割り案を一つに絞り込みたいとする橋下氏に対し、公明幹部は「議論が不十分で賛成できない」と伝えた。いきなり辞職を持ち出した橋下氏に、「4案で続ければいい」「集中審議をしてもいい」と翻意を促したが、橋下氏は「僕のこだわりです。もう変えられません」と返した。

 法定協で、公明は自民、民主、共産とともに絞り込みに反対。大阪維新の会側は「都構想は暗礁に乗り上げた」(幹事長の松井一郎府知事)と受け止めた。

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 「議席欲しさに都構想に協力すると言って、議席を得たらほごにするのは人の道に反する」。橋下氏は3日、辞職表明の記者会見で、公明批判をまくし立てた。

 橋下氏が「約束違反」と訴えるのは、2012年衆院選の公明との選挙協力だ。09年衆院選で失った大阪府内4議席などの奪還を目指す公明は、国政進出へと勢い付く維新を頼みの綱とした。公明候補がいる選挙区に維新候補を立てない代わりに、「都構想の住民投票の実施まで協力をしてもらう約束を取り付けた」というのが橋下氏の言い分だ。

 公明との距離が目立つようになったのは、橋下氏のいわゆる従軍慰安婦を巡る発言からだ。世論や公明支持層の反発を招き、橋下氏の求心力は低下。維新が昨年9月の堺市長選で敗北し、失速が顕著になると、公明にとって協力のメリットは薄れた。「約束」についても、公明側は「そこまで踏み込んだ話はしていない。住民投票はしっかりした制度設計ができた上での話だ」と真っ向から否定する。

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 橋下氏が08年に政界入りして以降、公明と橋下氏は離れたり近づいたり、互いの立ち位置を変えてきた。

 「迷惑かけます。必死に止めたんですが……」

 公明市議団の待場康生幹事長は3日夜、ある維新市議から電話を受けた。市議は電話口で、辞職表明に至ったことをわびた。

 橋下氏が出直し選で勝っても、維新が過半数に満たない市議会の構成が変わらない以上、公明の協力が必要な状況は続く。都構想はもちろん、橋下氏がこだわる地下鉄民営化などの大型政策も進まない。

 「大義なき選挙」と橋下氏への批判を強める公明側にも、全面対決には及び腰にならざるを得ない事情はある。次期衆院選。公明の国会議員秘書は「橋下氏が本気で(公明が府内で持つ衆院議員)4議席を取りに来たら、うちにとって目も当てられない結果になるかもしれない」と語る。

 ただ、今回ばかりは溝は埋まりそうにない。公明府本部幹部は橋下氏をこう突き放した。「人の道に反する、とまで罵倒されれば、もう関係は終わりだ」

(2014年2月5日10時49分 読売新聞)