任天堂のキラーコンテンツに期待


2014/1/31 2:41日本経済新聞 電子版

 任天堂岩田聡社長は30日、日本経済新聞のインタビューで「ハードウエアは決定的なソフトが1つ出れば状況がガラッと変わることがある」としたうえで「その1本を出したい」と強調した。据え置き型ゲーム機の「Wii U」が低迷する中でも、従来のビジネスモデルにのっとり画期的なソフトで挽回を目指す考えを強調した。ゲームにとらわれず、広く娯楽分野でのM&A(合併・買収)で新規事業を開拓する方針も示した。主なやり取りは以下の通り。

インタビューに答える任天堂の岩田社長(30日午後、東京都千代田区)
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インタビューに答える任天堂の岩田社長(30日午後、東京都千代田区)
 ――30日の経営方針説明を受け、同日の株価は下がった。抜本的な内容ではなかったのではないか。

 「抜本的かどうかは未来の業績で決まる。もちろん現状の株価を楽観していないが、我々の考えている意味や効果を理解してもらえるよう努力する。結果を出して流れを変えたい」

 ――今年中に出すと表明したスマートフォンスマホ)向けアプリの具体的な内容は。

 「任天堂の商品の良さを伝えるアプリにする。ゲームを作ってもいいし、任天堂のキャラクターを使ってもいい。毎日起動してもらえるような存在になることが理想だ。単純に任天堂の過去の作品をスマホに出すつもりはない。任天堂のゲームを移植するだけで、会社を支えられるだけの収入を得られるとは考えていない」

 ――アプリ自体で稼ぐ考えはあるのか。

 「たくさんの人が毎日来てくれたら、それを任天堂のプラットフォームのために役立てる方法はいくらでもイメージできる。直接お金を払ってもらう形をとらなくても十分な価値がある。ただ未来永劫(えいごう)そこで稼ぐチャンスが生まれたのに何もしないと決める必要はない」

 ――テレビゲームに復活の芽はあるのか。

 「(据え置き型ゲーム機の)『Wii』や(携帯型ゲーム機の)『ニンテンドーDS』を始める時にも、ゲームの未来は暗いと論評をする人はたくさんいた。『Wii U』が今のところうまくいっているとは思わないが、ハードウエアは決定的なソフトが1つ出れば状況がガラッと変わることがある。かつて(携帯型ゲーム機の)『ゲームボーイ』が低迷したときはポケモンが出て変わった。その1本を出したい」

 ――豊富な現預金を使ったM&Aについては。

 「娯楽以外のビジネスをしようとは思わない。豊富な資金が選択肢を増やしていることは事実。ある部分を強化したいときにM&Aという選択肢がある。色々な可能性を模索している。ビデオゲーム業界とは限らない」

 ――業績を安定させる方策は。

 「キャラクタービジネスを積極展開する。ゲームから独立した事業なので業績変動幅を縮小できる。新興国市場では先進国とは連動しないマーケットをつくれると思う。一切振れ幅のない未来はないが、減らす努力はしたい」

 ――以前は「任天堂らしい営業利益は1000億円以上」という言い方をしていたが、今も変わっていないか。

 「今もそういう水準(が妥当)だと思うが、『Wii U』が不振なので、その数字を1年で達成可能な目標として掲げるべきだとは思っていない。いつまで待てば任天堂らしい営業利益になるのか。1年ではできないが、3年たっても全然そうでなければ何かが間違っているのだと思う」

 ――説明会では娯楽の定義を広げてゲームに限らず事業を展開するとしたが、任天堂の将来の姿はどうなっているか。

 「今日の説明会で再定義した娯楽の定義は『人々の生活の質を楽しく向上させる』だ。それが任天堂のやることだ。狭く考えるとどんどん選択肢が狭まるので広く考える。もともと任天堂はカードゲームの会社だった。それがおもちゃ、電子玩具、テレビゲームと変わっていった。30年のゲーム専用機の仕事のなかでも何回も変わっており、任天堂の歴史は変化の歴史だ。また今回も変わるときが来た。娯楽に関わることで任天堂が得意とすることは何か。例えばおもてなしの力や楽しく継続する力。そういう強みを自覚して考えると別のビジネスチャンスが見つかると思う」

 ――社長に就任してもう12年。後継問題をどう考えているか。

 「私は54歳で世間の社長の中で年を取った方ではなく、時間が残されている。後継問題が近い将来の問題だとは考えていない。経営者は一朝一夕には見つからないし育てられない。だからこそ、社内の色々な人にどんな素養があり、どのような経験をしてもらえれば将来、マネジメントを担える人材が育つかを考えている。ただ、何年後に誰にバトンを渡すかは何も申し上げることはない」

 ――日本にカジノをつくることについてどう思うか。

 「ノーコメントだ。そこは任天堂の仕事ではないと思っている。それは私の考える娯楽の定義に入らない」