予想・予測を超える素晴らしさ 「半沢直樹」

監督も想定外!「半沢直樹」メガヒットの裏側 なぜ、銀行ドラマが視聴率30%を叩き出せたのか?

東洋経済オンライン2013年08月12日08時00分

 監督も想定外!「半沢直樹」メガヒットの裏側 なぜ、銀行ドラマが視聴率30%を叩き出せたのか?


監督も想定外!「半沢直樹」メガヒットの裏側
「やられたら倍返しだ」――。


 “家族で一緒に見るドラマ”が主流の日曜夜9時。この時間帯では“異例”とも言われる「銀行」を舞台にしたドラマ、「半沢直樹」が人気を博している。視聴率は今年の連ドラとしては最高視聴率をたたき出している。


 その理由こそ、冒頭の決めセリフを言う主人公・半沢直樹という男。大手銀行の優良支店の融資課長という、いわゆる「中間管理職」。出世争いや企業の論理に振り回されながらも、銀行のトップである「頭取」を目指す。このドラマでは、ひとりのバンカー(銀行員)の痛快な生き様が話題となっている。現在、第1部である大阪を舞台にした話が終わったばかりだが、すでにさまざまなメディアが取り上げる、今、テレビ界で最も注目されている番組だ。


 ドラマの演出を手掛ける(映画で言う監督にあたる)福澤克雄氏に、「半沢直樹」のヒットの理由、魅力について聞いた。

■平均視聴率15%を目指していた

――「半沢直樹」の大ヒットをどう見ていますか?


 まったくの「想定外」でした。びっくりしています。僕らは最終回で20%を取ろうとしていたのです。「半沢直樹」は、これまでのドラマ界の常識で考えると、登場人物に女性が少なく、わかりやすく視聴率を取れるキャラクターもおらず、恋愛もないという「ないないづくし」。それに銀行という“男”の世界が舞台です。セオリーどおりなら、ドラマのメインターゲットと言われる女性は「見ない」ということになりますよね。
だから、当初は、12〜13%から初めて、徐々に視聴率を上げて、最終回で20%。プロデューサーと「平均15%取りましょう!」と誓い合っていたくらいです。でも、いざ、フタを開けてみたら、女性が見ていた。テレビの常識がいかに適当だったか、マーケティングというものがいかにアテにならないか、ということでしょう。これまでの「●●がないから視聴者は見ない」という常識は、逆に言えば、「これだったら食いつくだろう」と視聴者に対してある種の「上から目線」じゃないですか。刑事物がヒットしたら、皆、刑事モノに殺到しているでしょう。
だから、「半沢直樹」は、最後は自分が面白いと思うものを作るしかないと思ったわけ。それしかないと。だから、今は2カ月、家に帰らずに撮影と編集をしています(笑)。
最初から“常識外れ”のドラマだったから、原作を書いた池井戸潤先生との最初の打ち合わせのときも「一生懸命作りますけど、たぶん当たらないですよ」と言っていたくらいです(笑)。ただ、僕はこのドラマを通して、半沢直樹という人間の生き方や面白さを描きたかった。半沢の人生はテレビにいちばん合っている「成り上がり」の物語。自分たちで本当に面白いと思った原作だったので、まだ書かれていない「半沢が頭取になるまで僕にやらせてください」と池井戸先生にお願いもしました(笑)。
■高視聴率の2つの要因
――なぜ、視聴率が取れたと思っていますか。
それは2つあります。ひとつは、原作の面白さです。もうひとつは半沢直樹を演じる堺雅人さんの演技です。これらがいい形で化学反応を起こしたのだと思います。
僕は池井戸先生の本を、直木賞を受賞した『下町ロケット』や吉川英治文学新人賞を受賞した『鉄の骨』などを含め、デビュー作からすべて読みました。ただ実は最後までこのドラマの原作である『オレたちバブル入行組』や『オレたち花のバブル組』は読めなかった。バブル入社の話で「昔はよかったぜ」という話ではないか、と勝手に思い込んでいて、あまりいいイメージがなかった。でも、実際に読んでみると、このシリーズがいちばん面白い(笑)。
とにかく余計な話を入れずに、ストレートに話がどんどん進んでいく。この作品に、昔の日本映画が持っていた「パワー」を感じたのです。だから、僕は今回のドラマ化にあたって、黒澤明監督の映画『用心棒』(1961年公開)のような作品にしたかったのです。僕の中では、「半沢直樹」は「現代版用心棒」です。
『用心棒』はテーマがなくて、とにかく「活劇」。用心棒が村にやってきて、一見して悪者がわかる村人に対し、はちゃめちゃやって、物事に片をつけて去って行く。この作品が面白くて、何回も見ながら、こういうドラマにしたいと。だから、ドラマを豪華に見せようとか、恋愛を入れようとか家族愛を描こうといった、サイドストーリーを入れることはせず、原作のように次々とテンポよく話が進むようにしました。
あとは、悪役は悪役らしく、ヒーローはヒーローらしく、わかりやすく。『用心棒』では、新田辛之吉を演じた加東大介さん、清兵衛の女房おりんを演じた山田五十鈴さんのような名優が悪役を見事に演じている。今回も、国税局の黒崎を演じている片岡愛之助さん、東田を演じる宇梶剛士さんなど、悪役としてオファーをして“わかりやすい悪役”として出演してもらっています。キャスティングは基本的にはプロデューサーがやっているのですが、小木曽役に緋田康人さんを連れてきた時は“完璧!”という感じでした(笑)。
――監督はバブル入社世代についてどう思いますか?
僕はバブル入社の少し上の世代で、バブル時代にAD(アシスタントディレクター)をしていました。当時は、今では、考えられないくらいドラマの制作費があり、バンバンカネを使っていました。その割に、いい作品が少ない。ほとんどが接待、飲食に消えたのではないでしょうか。バブル時代を謳歌した世代が、今や、1000円、2000円でうるさく言ってくる。それはイラつきますよね(笑)。
■堺さんには半沢直樹が乗り移っている!?
――もうひとつの要因は。
それは、堺雅人さんの演技です。今回のキャスティングでいちばん“ハマった”のは、堺さんですね。堺さんのキャスティングはTBS60周年記念のドラマ「南極大陸」(2011年)で一緒にやっていたので、プロデューサーとも意見が一致しました。
堺さんも原作を面白いと思っていただいて、一生懸命面白いところを抽出していただいています。現場では、堺さんとよく話し合いながらやっていますね。今では、僕以上に「半沢直樹」を熟知して、撮影所では半沢直樹が乗り移っていると感じるくらい(笑)。
ただ、この2つの要因があったら、視聴率20%取れるかというと、そうではない。最後に20%取ろうと思っていたんですから。次にこういう作品を作れと言われても、全然、自信ないですよ。
――半沢直樹の魅力は?
半沢直樹の魅力は、自分の信念を曲げないこと。そのくせ、「やられたらやり返す」というわりに、「悪かった」と言えば許してしまう。謝ってきた人は許す、結構“いいやつ”です。ただ、ひどいことをしてきたのに、謝らず、我を通してくるやつには“とことん”徹底的にやる。池井戸先生も頭取になるまで書くとおっしゃっているので、今から楽しみでしょうがないですね。
これまでのドラマでは、これという、似たような作品を思い出せませんが、個人的にはやはり映画『用心棒』ですかね。
――「倍返し」が流行語大賞という声も出ています。
もちろん重要なセリフなので印象的なシーンとしては描いていますが、流行語大賞になるなんて意識しないで作りましたよ。ただ、小説では「私は基本、性善説〜」というそれまでのくだりは活字だとわかるのですが、ドラマのセリフではわからない。だから「人の善意は信じます」に変えましたね。
■日曜9時に「スカッ」としてほしい
――片岡愛之助さんがとてもいいキャラクターとしてドラマを盛り立てています。
そうですね。原作にも出てくるオネエ言葉は飛び道具じゃないですか。一歩間違えると、はじかれる。ああいう役は日本の歌舞伎役者にやってもらうしかないと(笑)。プロデューサーとも意見が一致して、これまで仕事をしたことがある愛之助さんに頼みました。でも、社内ではオネエ言葉の国税局員なんか、出さないほうがいいという意見もありましたが、押し通しました。あんな人はいないと思うのですが、原作に書いてあるから仕方がない(笑)。
――最後に、今後の「半沢直樹」、楽しみにしております。
最初は、最終回で20%とろうと思っていたので、今、夢の中にいるような感じです。ただ、今まさに撮影中なので、浮かれてもいられません。撮影も編集もしている真っ最中。まだ、5話目で、あと5話残っています。皆さんの期待を裏切らないように頑張っていきたいですね。
やっぱり「半沢直樹」を見て、日曜9時に「スカッ」と物語を楽しんでもらいたいです。だって、あんな人いないでしょ!?