あまちゃん おらのママに歴史あり 2  第91話 7/15

わたし アキちゃんを傷つけた

三陸に帰省中のアキ(能年玲奈)はユイ(橋本愛に呼び出される。かつて、地元アイドルとしてステージに立った思い出の海女カフェで、2人は本音をぶつけ合う。


ユイはアイドルを目指し、上京を夢見ていたが、父・功(平泉成の病と母・よしえ(八木亜希子の失踪により北三陸に留まらざるを得なくなり、すっかり投げやりになっていた。アキに冷たい言葉をぶつけるユイ。アキはこれまで秘めてきた思いを伝えるが…。

あまちゃん」ヒットの理由 ジブリ作品と意外な共通点

五百田 達成 | 作家・カウンセラー

生まれて初めて、朝の連続テレビ小説を欠かさず見ています。

あまちゃん」。4月の放送開始以来、好調な視聴率をキープしていて週刊誌でもたびたび特集が組まれるなど、大変な話題になっています。

最初は宮藤官九郎の脚本ということで興味を持って見始めたのですが、回を重ねるごとに引き込まれて、すっかり虜に。1話15分というペースにも慣れ、いまでは放送のない日曜日が物足りないほどです。


あまちゃん」には現実感がない!?
ドラマ「あまちゃん」の魅力のひとつに「ファンタジー感」が挙げられるのではないでしょうか?

主人公・アキは「ありえないほど」無垢で天真爛漫な少女。その他の登場人物も、出てくる人、出てくる人、それぞれクセはあるものの「ありえないほど」いい人ばかりで、心が癒やされます。


舞台となる北三陸も、過疎だとか少子高齢化だとかそういった生々しい現実は薄く、ただひたすらに海のきれいな田舎として描かれていて、「ほんとにこんな街あるのだろうか」と狐につままれたような気持ちに。


懐かしい80年代歌謡が流れる中、少女はウニを獲り、初恋を経験し、失恋し、親友といっしょにアイドル歌手を目指す・・・。どこまでもふわふわと居心地のいい物語が展開されるので、国民みんなが「アキちゃん、かわいい!」と手放しで応援することができます。


「悪意のまったくない理想郷」「ずっと見ていたいほっこり感」は、「じぇじぇ!」という決めゼリフとも相まって、ドラマというよりもマンガやアニメに近い印象です。

美しい風景に目を細めながら夏ばっば(アキの祖母)の優しい語りを聞いていると、まるで「まんが日本昔ばなし」を見ているよう。もっと言えば、それはまるっきり「ジブリ」なのでした。

あまちゃん」=ジブリ


そう考えると、アキはジブリアニメの主人公の少女たちとオーバーラップしますし、海女さんや鉄道職員たちのインパクトあふれるビジュアルも、ジブリアニメに出てくる心やさしい妖怪たちを彷彿させます。

潜水土木科の実習に登場する古めかしい潜水服など、「あれ? こんなキャラクター、ジブリアニメにいなかったっけ?」と錯覚を起こすほど(「ネコバス」、「カオナシ」、「ナンブモグリ」)。


ピュアな少女が異界の地に紛れ込み、冒険を繰り広げ、恋に落ち、少し強くなって帰ってくるというストーリーはジブリの十八番。

当初は、テンポのよすぎるセリフ回しや毒の効いたユーモアに「こんなドラマが朝から全国に流れてだいじょうぶなの?」とヒヤヒヤしましたが、その実、老若男女どの層にも受け入れられるよう設計されていたわけで、ある意味こんなに朝ドラらしい朝ドラはないのかもしれません。

(「あまりに不幸で救いのない展開に打ちのめされた」という声が多かった前作「純と愛」は大きな違いです)浮き彫りになる「夢と現実」ところが。


その「あまちゃん」が、いま大きな転換点を迎えています。


4月のスタートから約3ヵ月続いた「故郷編」に続き、3週前から「東京編」が始まりました。そこには、これまで影をひそめていた「現実感」が一気に押し寄せてきています。

病に倒れる父、かなわない上京、介護疲れに失踪する母、挫折、嫉妬、妨害・・・。ジブリ的幻想世界から一転して、人間の生の感情がリアルに描かれ主人公を翻弄します(語りも夏ばっばからアキにスイッチ)。

というか、「東京編」との対比で初めて「あぁ、これまでの『あまちゃん』は、つくづくジブリだったのだなあ」と気づかされた次第です。


たとえばこんなシーン。「東京編」が始まってすぐ、アキは以前自分をいじめていた同級生にばったり出会いますが、その女子高生が実におっかない。画面を通して突然つきつけられる悪意(「調子こいてんじゃねえよ!」)は、それまでの「あまちゃん」にはなかったもの。ざらりとした違和感に「これは何か様子が違うぞ」と不穏な予兆を感じたのでした。


夢と憧れの象徴=東京・アイドルこそが、シビアな現実にまみれた世界、という落差。それ以降も、アキが夏ばっばに電話するたび、夏ばっばは日だまりの中でのんびり猫をなでている、など「あちら=理想郷」と「こちら=現実世界」の対比が強調されます。

主人公が現実世界に戻っていくところで終わることが多いジブリ作品と違い、「あまちゃん」は「それ以降」も描いているという見方もできますし、「夢」と「現実」という人生に欠かせない両面を描いてこそ宮藤官九郎の世界は完成するという深読みもできます。


物語の世界はまだ2010年元旦。2011年の震災(=もっとも過酷な現実)までも描くと噂されている「あまちゃん」において、これからこういった「北三陸と東京」「夢と現実」「ファンタジーとリアル」のコントラスト(そして融合)も、見どころのひとつとなるはずです。

(故郷に帰ってもイマドキの服装を崩さず言葉も標準語だった春子(アキの母)は、ついにメイクやファッションを変えて方言も話すなど、「あちら」になじみつつあります)


次はどんなオモシロ俳優が?
もちろん、こんなうがった見方をしなくても(しないほうが?)、「あまちゃん」は十分楽しめます!


ヤンキーになってしまったユイの今後は? 憧れの種市先輩との恋模様は? アキとGMTメンバーの夢はかなうのか? 春子と太巻の過去にはいったい何があったのか? などなど目が離せません。

(「次はどのオモシロ俳優が出演するか」も見どころのひとつ。大久保佳代子の衝撃に続き、突然の石田ひかりには「わっ!」と声をあげてしまいました。次週からは、糸井重里清水ミチコが登場すると話題になっています)


放送予定は9月いっぱい。ということは残りふた月ちょっと。


もうすでに名残惜しい気持ちでいっぱいですが、生まれて初めての体験を、さまざまな角度からめいっぱい楽しみたいと思ってるでがす。