原発の未来は 脱原発

原子力に関しては、中長期的には脱原発する以外に、選択肢はほとんどないと思います。

 日本は今、原子力の知識レベルが世界一高い国になりました。シーベルトといった専門用語が日常会話に出てくる国はどこにもない。原発は安全でもなければ安くもないことが知れ渡り、原子力産業の不透明性も多くの人が知ってしまった。たとえ一部の人々が巻き返そうとしても、これは不可逆的な変化です。

 野田佳彦首相は調整型なので方針を明言しませんが、新設・増設は難しい、古い原発廃炉にしなければならないと表明している。それなら古い順から廃炉になり、寿命とされる40年以内に脱原発になる。宣言するかしないかの違いです。

 脱原発が理想や夢だとはまったく思いません。「原発をやめれば経済成長が止まる」と主張する人もいますが、それは一昔前の考え方。北欧やドイツが脱原発して自然エネルギーに転換しても、貧しくなるわけではないでしょう。自然エネルギーの技術は上がり、原発よりコストも安くなり雇用もあるという試算もある。一方で原発は安全性配慮や廃棄物処理でコストが上がる。独自核武装を重視するフランスを例外として、フクシマ後では先進国で原発推進が軌道に乗っている国はない。そうでなければ、日本でも世論調査脱原発支持が7割以上になることはなかったでしょう。

 つまり脱原発は国内事情からいっても、国際的な時代の流れからいっても、避けがたい必然です。政府はこの現状を認めて、方針を決め具体的な計画を作るべきです。1970年代の排ガス規制のように、方針が決まれば日本経済の適応力は高い。日本の自動車はそこから世界をリードする産業になりました。次の日本の産業も脱原発から出てくるかもしれません。

 これは日本の全体に関わる方針決定ですから、震災復興も、その方針に関連して論じたほうがいい。被災地の従来の産業である農業や製造業は、国際競争で苦しくなっている。自然エネルギーによる発電は、これから伸びる産業であると同時に、当面は国際競争にさらされる懸念がありません。

 それを政策的に促進するなら、特区を設けるとか、原発への補助金を決めている電源3法を風力や太陽光発電に適用する方法もある。地方が補助金をもらい、都会の電力を供給する構造には異論もあるでしょうが、原発補助金を出し続けるより合意が得やすいでしょう。

 政治はエンジンではなくても、かじを取ることはできる。かじを取らなければならないときに、初めから調整ばかりしていては、国民は未来が見えません。ある方向に進めようとするときにこそ、利害を調整することが必要となるのですから。
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 おぐま・えいじ 62年東京生まれ。慶応大教授。著書に「〈民主〉と〈愛国〉」「1968」など