常々疑問に感じる 旧暦の安易な 現代暦への移行

国立天文台より引用
「旧暦」は現在の暦より季節に合っているの?



 みなさんのなかには、明治以前に使われていた旧暦のほうが、現在私たちが使っている暦(グレゴリオ暦)よりも季節に合っている、と考えている方がいるかもしれません。しかし実際には、太陽の動きをもとに作られている現在の暦のほうが、季節には合っているのです。


 まず、季節の変化はどのようにして生じるのでしょうか。


 私達が感じている1年間の季節変化は、地表面が暖められる強さが、太陽の位置によって変化することで生じているのです。日本(のような北半球の中緯度に位置する場所)では、夏至の頃には太陽の高度が高くなり、それだけ地表面が強く暖められるために夏になります。冬至の頃は反対に太陽の高度が低くなり、地表面があまり暖められないために冷えて冬になります。


 私達が現在使っている暦(「グレゴリオ暦」)は、この太陽の動きと月日とのずれが、できるだけ少なくなるように作られています。ですから、それぞれの年の気候の変化を除いては、最も季節に合った暦であるということが言えます。


 それでは、「旧暦」はどうでしょう。

 まず、「旧暦」がどのように作られていたかについては、「『旧暦』ってなに?」をご覧になってください。簡単に説明すると、「旧暦」は月の満ち欠けでひと月の長さを決めていました。月の満ち欠けの周期は約29.5日ですので、12ヶ月では354日ほどの長さになります。もしそのまままったく修正をしないと、月日は季節に対して1年に約11日ずつ前にずれていき、20年もしないうちに、夏至の頃に元日を迎えることになってしまいます。


 そこで「旧暦」では、閏(うるう)月をおよそ19年に7回の割合で挿入して、季節と月日のずれがあまり大きくならないように調整しました。閏月をいつ入れるかは、「必ず2月と3月に入れる」というように固定されているのではなく、季節と月日のずれが大きくなったら入れるような規則に従っていました。

 閏月が入った年は、1年が13ヶ月になります。例えば、まだ「旧暦」が使われていた明治3年には、10月のあとに閏10月が入れられました。現在の暦に換算すると、明治3年の10月1日は現在の10月25日、閏10月1日は現在の11月23日、11月1日は現在の12月22日になります。このように、「旧暦」では、閏月を入れることによって季節と月日のずれをまとめて調整するため、同じ月日であっても、年によって、季節が最大で約1ヶ月も前後してしまうことがあります。


 今まで見てきたように、現在の暦であれば、月日と季節が一致していますので、「この場所ではだいたい4月の上旬に桜が咲く」というような言い方ができます。また、例年と比較して、「今年は桜の咲くのがずいぶん遅い」などといえるのは、現在の暦の月日が季節に合っているためです。「旧暦」では、同じ月日でも年によって季節が違いますので、月日は桜の咲く時期など、季節の目安にはなりません。


 とはいうものの、農業に従事する方のように、季節と密接に結びついた作業をしなければならない場合には、どうしても正確な季節を知る必要がありました。そのため、季節を知る手だてとして、「二十四節気」が使われました。小寒大寒立春・・・冬至という、約半月ごとの季節の目安が二十四節気で、昔の暦の計算方法とともに中国から伝えられたものです。現在でも、季節を表す言葉として目にすることは多いと思います。


 実は二十四節気は、現在の暦の月日を決めているのと同じように、太陽の動きを元にして決められています。(だからこそ、季節を知るための目安になったわけです。)二十四節気も現在の暦もどちらも太陽の動きを元にしているために、現在の暦では二十四節気の月日は毎年ほぼ同じになります。


 いろいろな説明をしてきましたが、それでも、伝統的な行事などの季節感と現在の暦の月日がずれているように感じることがあります。その理由のひとつとして、「旧暦」と現在の暦はもともと平均1ヶ月ほどのずれがあるにもかかわらず、「旧暦」の日付をそのまま現在の日付に移してしまったことがあると思われます。