推定無罪の原則


 

推定無罪とは、裁判所の有罪判決が確定するまでは被告人は無罪であるという時系列的に当たり前のことを意味するわけではなく、上記のように、検察官が犯罪事実の立証責任を負うという意味である。しかし、報道その他の誤解や推定無罪という語感から、前者の意味で用いられることが多い。このように、推定無罪は裁判所・検察官を規律する証明責任の分配ルールであるから、警察や報道機関を直接拘束しないのは当然である。


 前者の意味で用いられる場合、マスコミや一般国民の感覚において実際には被疑者・被告人の無罪推定は有名無実化しており、逮捕・起訴されたものは有罪、すなわち「逮捕(すること)=有罪(にすること)」「容疑者(被告)=犯罪者」であるとの誤認識が定着している。それどころか、法的には罪に当たらない行為や、軽微な罰則のみに留まるような事例においても、国民感情や憶測・推測だけで犯人(悪者)扱いするケースが後を絶たない。この裏には金持ちや権力者、有名人などに対する嫉妬心や自身の生活などに対する不満の当て付け、およびそれを煽るマスコミが大きく影響しているケースが多く見られる。また、少ない情報や偏向報道からくる憶測だけで有罪を立証されたものと思い込み、犯人と決めつけることができると誤解している国民が多いことも背景にある。


 そのため、法的には無罪であるにもかかわらず、被疑者の実名が報道された時点で「逮捕する=有罪判決を言い渡す」との誤認識も定着しており、警察による発表やマスコミによる名誉毀損報道、周囲の人間による差別を受け、直接的な人権侵害を受ける例まである