外伝 ベルサイユのばら−アラン編−

 2009年11月22日(14:00〜97分) 原作者・池田理代子氏が宝塚歌劇のために書き下ろしたストーリーのもと、従来とは視点を変えた『ベルサイユのばら』。'08年花組/全国/出演:真飛聖(まとぶ・せい)さん、桜乃彩音(さくらの・あやね)さん 他。

ベルサイユのばら」の原作者・池田理代子氏が、宝塚歌劇の為に特別に書き下ろしたストーリーをもとに、従来とは視点を変えた『ベルサイユのばら』の世界を描いた作品。ジェローデル、アラン、ベルナールと、それぞれに焦点を当て描かれる「外伝3部作」のアラン編。
 衛兵隊士アランと、命を絶った後も兄アランの心を理解し優しく包み込むディアンヌ。2人の魂の会話を中心に、様々な愛の形を描く。'08年花組・全国ツアー。脚本・演出は植田紳爾氏。
 バスティーユの戦闘からおよそ10年の歳月が経ち、昔の面影を失ってしまったベルサイユ宮殿の練兵場の広場。「片腕の将軍」と畏れられているアラン(真飛さん)は、自らの最期を悟り、懐古の念に駆られるようにこの地を訪れた。そんな彼に、亡くなった妹ディアンヌ(桜乃さん)が語りかける。命が尽きた後もディアンヌの魂は常に愛する兄の傍らにあった。アランはディアンヌと共に、かつてベルサイユ宮殿で衛兵隊士として過ごした青春の日々、女性でありながら近衛隊から衛兵隊へと転属してきた新任の上官オスカル(愛音羽麗(あいね・はれい)さん)、オスカルの従卒として一緒に衛兵隊に来たアンドレ(壮一帆(そう・かずほ)さん)達とのことを振り返る…。

やっと本物の兄妹に

 真飛さんは、アランを星組時代の『ベルサイユのばら 2001』で演じていますが、当たり役でしたね。

 真飛聖さん:アランはあの頃初めての大きな役で、セリフもたくさんいただいて嬉しかったんですが、とにかく必死だったことしか覚えてないんです。新人公演でオスカル役を演じることになっていたこともあって、余裕なんて全然なくて、絶対にセリフを間違えないようにとか、集中しようと思いながら舞台に出ていました。でもアランをやってからいろいろな役を幅広くいただけるようになって、私の転機ではあったと思います。

 桜乃さんはその頃の『ベルサイユのばら』は、まだ観る側だったのでは?
桜乃彩音さん: はい。その星組版を立ち見で観ました。チケットが売り切れで、全然なかったので。でもどうしても観たくて。


―― その憧れの作品でディアンヌ役を演じるわけですが。
桜乃さん: 嬉しいです。この作品ではディアンヌはすでに死んでいる設定になっていて、お兄さんのそばで魂となって見守っているんです。


真飛さん: アランの内面を語ってもらうみたいな存在なんです。


―― コンビもプレお披露目を入れると3作目ですが、なぜか兄妹ばかりですね?
真飛さん: 本物は今回が初めてですね。最初は『メランコリック・ジゴロ』でニセモノの兄妹で。


桜乃さん: 私が勘違いしてるんです(笑)。


真飛さん: 2回目の『愛と死のアラビア』では「お兄さま」と呼びなさいと(笑)。最後は夫婦になりましたが。


桜乃さん: 全部呼び方が違うんです。最初が「お兄ちゃん」で、次が「お兄さま」、今回は「お兄さん」です。


真飛さん: さすがにもうないだろうね(笑)。


  リンクする3作品
―― フランス革命の後日談という点では雪組の『ジェローデル編』と共通ですね。

真飛さん: 『外伝 ベルサイユのばら』の3部作というだけあって、ちゃんとつながってるんですよ
同じ曲もあり、歌詞も「雪」だったところが「花」になって、次は「星」に変わっていくというふうに、3部作がリンクしています。場面も共通のところがちゃんとあるんです。

桜乃さん: プロローグと革命のシーンは同じです。革命は、植田紳爾先生がおっしゃるには市民が中心の戦いということで、雪組版では貴族も登場しましたが、花組版は市民だけになっています。


真飛さん: 今回はバスチーユの革命の場面から10数年後というところから始まって、回想と交互に場面が出てくる展開なので、なかなか背景をつかむのが難しいんです。雪組版では出てこなかったナポレオンも花組版には出てきて、アランはナポレオンに勝負を挑んでいるのですが、死を覚悟しているというところもあって。プロローグは『ベルばら』らしく華やかですが、中身のドラマは深いですね。


―― アランの荒くれ者としての部分だけでなく内面が見えてくるという感じですか?
真飛さん: そうなんです。繊細というか脆いというか。一応貴族ですので(笑)。アランは革命で片腕をなくしているんです。そこからの生き方はけっこう重いんです。


―― ディアンヌも魂とはいえ、心を見せる場面はあるのでしょう?
桜乃さん: ディアンヌは、そういう形でお兄さんを見守りながらそばにいられる幸せはあるのですが、実際は、自分は何もできない。お兄さんが危険な戦いに行くのを止めることもできなければ、どうなるか見えているのに言ってあげることもできない。そういう無力さみたいなものを訴える場面があります。それから、まだ幼かったから自分の命の重さもわからずに、ただ寂しくて悲しくて死を選んでしまった。そんな自分への思いを語ったりします。


―― ディアンヌさん以外にアランの家族は?
桜乃さん: 出てこないんです。


真飛さん: 衛兵隊たちの家族はたくさん出てくるんですけどね。それがまた、とてもいい場面なんですよ。

桜乃さん: 切ないんですよね。


真飛さん: 隊員たちがパンを隠して持っていくところなんて、涙が出てきます。隊員と家族たちが一緒に出るシーンはないんですが、それぞれ家族を思いやるようなシーンがあるんです。


  華やかな稽古場
―― 『ベルサイユのばら』は、花組は久しぶりですね。
真飛さん: 私は縁があったのですが、花組自体は本当に縁がなかったようで、2004年のイベントの『ベルサイユのばら 30』くらいで、公演は1990年の大浦みずきさんの「フェルゼン編」が最後だとか。


桜乃さん: それ以来だと聞いています。


真飛さん: でもやっぱり宝塚といえば『ベルサイユのばら』ですから、組子のなかにも『ベルばら』を観てファンになった人もいますし、出てみたかったという人が多いんですよ。でも経験がないから、立ち居振る舞いから違う世界ということで、最初はみんなに戸惑いが見えていました。それが慣れてきたら稽古場もフリルなど着て華やかになってきて(笑)。


―― 真飛さんはアランですから、フリルというわけにはいかないんでしょうね。
真飛さん: でもプロローグは華やかに出ますので。雪組版と同じように宮廷服です。髪も後ろでくくって、ベルばらチックにリボンをつけています(笑)。


―― 桜乃さんはもちろん輪っかのドレスで?
桜乃さん: 1場面、輪っかのドレスがあります。


真飛さん: オープニングのデュエットダンスとか、そのあたりは雪組版のオープニングと同じです。もし雪組を見逃したかたがいたら、花組からでも間に合いますから(笑)、花組星組とリンクするのをご覧いただきたいですね。来年の中日劇場では『外伝 ベルサイユのばら』最後の宙組もありますし。


―― 様式美の芝居でもありますから、動きとか型とかで苦労などは?
真飛さん: まず芝居の間が違いますから、ゆっくりめにしゃべるというのがあります。エンディングがかかる間際の間の取り方とかが、独特なんですよ。それに、まず音楽があって登場というのが植田先生のこだわりというか『ベルばら』の醍醐味ですね。「ジャジャジャジャーン」というなかで出てきたりするでしょう(笑)。


桜乃さん: 本当に『ベルばら』らしいですよね。

真飛さん: あれは植田先生の演出のなかで計算されたものなんですよ。そういう演出を思い出すまで、なかなか感覚がつかめなかったんです。この前の『愛と死のアラビア』もコスチュームものではあったんですけど。


―― あちらは時代も現代に近かったですからね。
真飛さん: だから今、本当に“宝塚”で演じているという感覚がありますね。でも「外伝」ということで、今までの『ベルばら』にとらわれすぎず、それぞれの生き方を描くような作品になっていると思います。先ほども言いましたが、回想シーンが入って時代背景などが複雑ですから、自分たちがまず理解しなければいけないので。


桜乃さん: はい。歴史を知っていないとよくわからないことばかりです。


真飛さん: ナポレオンとの会話とかすごく難しいんです。彼の皇帝になりたい野望も理解している必要があるので、家でもその関連のマンガを必死で読んでいたり(笑)。遊んでるみたいなんですけどちゃんと勉強してるんですからね。


桜乃さん: (笑)。


―― 背景がきちんとわかって演じてくださると観るほうもわかりやすいです。ところでアランの最後はどうなるんですか?
真飛さん: いちばん大事なところなので、ちょっと話せないですねー(笑)。


桜乃さん: ディアンヌとしても何も言えないんですけど(笑)、とにかくすごく心配です。


真飛さん: 妹はつねに心配してる(笑)。最後をどう植田先生が着地させているかはぜひ全国ツアーを観に来てください。


  客席にも降ります
―― 同時上演のジョー『エンター・ザ・レビュー』ですが、真飛さんはなんと初めての出演ですね。
真飛さん: そうなんです。花組ではもう5回目くらいなのに。


桜乃さん: 東京公演や福岡公演とか、再演なども数えると5回目になるんです。私は全部出ています。


―― 真飛さん用に新しい場面があるとか?
真飛さん: 恋してはならない人に恋してしまった、その苦しみを踊るというシーンを作っていただきました。周りの男役ダンサーが全員私の分身で、衣装もいわゆる宝塚らしいものですがシンプルで、私は白い衣装なんです。それで思いっきり“葛藤”を踊るんです。音楽がジプシーキングスで。


―― それはかっこよさそうですね。
真飛さん: 踊ってから最後に歌に入っていって、私が“葛藤”を歌うと周りの男役が踊るという形で、すごくかっこいいと思います。あとの場面はほとんど変わりないよね?

桜乃さん: ちょっとキャラクターが(笑)。

真飛さん: そうだ、変わってるんだ(笑)。「コロンビーヌ」の場面が、春野寿美礼さんは悲劇だったのに喜劇になっています(笑)。


―― 『Red Hot Sea』に続いて、真面目なシーンが笑いに変更ですか?
真飛さん: なぜかそうなるんですよ(笑)。「コロンビーヌ」は、春野さんがやると純粋無垢なピエロちゃんだったのに、「やんちゃなピエロでいい」と振付の先生に言われて(笑)。ピエロが恋に傷ついてバラを大事に大事に抱く、そのポーズの稽古もしてきたのに(笑)、「そんなんじゃない。もっとやんちゃにやんちゃに」と言われています(笑)。


―― 明るい場面も楽しみです。もちろん“耽美”もあるのでしょうね?
真飛さん: 私の“耽美”は、フィナーレですね。シックなえんじ色の衣装で娘役さんたちと踊って、それから男役と踊って、最後は3組のデュエットダンスを踊るんです。自分でもステキだなと思いながら踊っています。


―― 桜乃さんとのデュエットダンスは、『Red Hot Sea』ですごいリフトを見せていただきました。
真飛さん: あれは筋肉がつきました(笑)。今回は残念ながらないんですよ。

桜乃さん: でも今回のデュエットダンスは、振付の先生がおっしゃるには、離れてても愛を感じていないといけないそうなんです。ゆうさん(真飛の愛称)の周りを走りまわりながら愛を感じていたいなと。


真飛さん: なんか恐い(笑)。


―― 桜乃さんはダンスが上手ですから走るのも綺麗では?
桜乃さん: えーっ、そんなこと言っていただいたの、初めてです。


真飛さん: よかったね、太字で書いてもらおう(笑)。


―― 全国ツアーは観る側も楽しみですね。いつもと違う演出もありますから。
真飛さん: 客席降りもありますよ。中詰めの「ドワッドワッ」っていうところでみんなが降りますから、盛り上がると思います。


桜乃さん: ぜひ『ベルサイユのばら』で、華やかさを観ていただいて。


真飛さん: ショーは客席降りなど全国ツアーならではの楽しさを味わいに、あちこちにぜひいらしてください。



 宝塚歌劇花組全国ツアー公演
 宝塚ロマン『外伝 ベルサイユのばら -アラン編-』
 原作:池田理代子氏。
 外伝原案:池田理代子氏。
 脚本・演出:植田紳爾氏。

 グランド・レビュー『エンター・ザ・レビュー』
 作・演出:酒井澄夫氏。

 全国ツアー公演
 公演期間:2008年9月20日(土)〜10月17日(金)