劇評: 「ラスト プレイ〜祈りのように〜」「Heat on Beat!」(宝塚歌劇支局)

 年末で退団する月組のトップスター、瀬奈じゅん(せな・じゅん)さんのサヨナラ公演、ミュージカル・ロマン「ラスト プレイ〜祈りのように〜」(正塚晴彦(まさつか・はるひこ)氏作、演出)とファンタスティック・ショー「Heat on Beat!」(三木章雄(みき・あきお)氏作、演出)が2009年10月9日、宝塚大劇場で開幕した。


 瀬奈さんの宝塚生活18年の最後を飾るのは、男役の究極の美学ともいうべき男同士の友情を描いたミュージカルとリズムの持つエネルギーをテーマにした瀬奈さんの魅力全開のショーの2本立て。


 「ラスト」は、プレッシャーのためにコンテストの演奏中に倒れ、ピアノが弾けなくなったピアニストの青年アリステア(瀬奈さん)が、偶然知りあった刑務所帰りの青年ムーア(霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん)の命をかけた友情のおかげでピアニストとして再生するまでを描いたドラマ。


 随所に正塚氏らしいしゃれた会話やユーモアがちりばめられており、最後まであかずに見られるが、主人公の生き様にいまいち魅力がとぼしく、ラストが思うように盛り上がらない。

 しかし、スーツが似合う瀬奈さんのスタイリッシュな雰囲気はよくでており、瀬奈さんファンにはこたえられないかも。瀬奈さんがピアニストという設定のため、ギャングが横行するドラマにクラシックピアノが全編にバックミュージックとして流れるのも不思議な感覚。

 ただ非常に感覚的な舞台なので、公演を重ねて、瀬奈さんのかっこよさのテンションが上がってくれば、さらに充実した舞台になる可能性を秘めている。

 霧矢さんが演じるムーアは、アリステアに比べれば、ずっと面白い人物像。アリステアに親しみを感じていく過程もかなりうまく描き込まれていることもあって強い印象を与える。


 他の出演者では、ムーアの仲間クリストファーに扮した龍真咲(りゅう・まさき)さんの存在感が増した。これが最後となった遼河はるひ(りょうが・はるひ)さんは桐生園加(きりゅう・そのか)さん扮するヴィクトールとともにコンビを組むチンピラのジークムント。すごみをきかせながらも、抜けたところもある二枚目半的なコンビを軽妙に演じ、笑いを誘っている。


 ギャングの有力者ローレンスの青樹泉(あおき・いずみ)さん、外科医の星条海斗(せいじょう・かいと)さん、サナトリウムの医者マクシミリアンの明日海りお(あすみ・りお)さんの3人は顔見世程度のワンポイント出演。 娘役はアリステアの幼なじみヘレナ役が羽桜しずく(はざくら・しずく)さん、ムーアの恋人、エスメラルダが城咲あい(しろさき・あい)さん。どちらもヒロインという形ではないがそれなりに大きな役だった。2人もこれがサヨナラとなったが、これからという時だけにちょっと惜しい気がする。


 ショーは、オープニングの瀬奈さん登場の装置からなかなか凝っていて、いきなり目を奪われ、その後も、とにかくダンスダンスダンスの洪水で、55分があっというま。

 KAZUMIーBOY氏振付による「BODY Heat」のような瀬奈さん、霧矢さん、城咲さんがからむストーリーダンス的なものもいいが、ラテンの場面でロケットのあと円柱から抜け出してきた女役スタイルの龍さん、明日海ら若手男役と瀬奈さんがセクシーに絡むシーンも楽しい。また、タンゴの場面で、豪華な衣装を脱ぎ捨て、瀬奈さんが黒シャツと裸足でたった1人で踊るダンスも鳥肌もの。最大のみどころだろう。

 瀬奈さんと霧矢さんがフランク・シナトラの名曲を歌い継ぐカーテン前のデュエット・メドレーに加えて龍さんを中心とした若さあふれる場面もあり、瀬奈じゅんさんのサヨナラに次代の光明もかいま見せた構成。


 エンディングは定番の黒エンビ。瀬奈さんはじめ男役陣総出演による惜別のボレロで締め括った。全体に三木氏らしいしゃれた大人のムードが横溢、なかなか楽しいショーに仕上がっていた。