太王四神記 Ver.II 東京宝塚劇場公演

ヅカ★ナビ 中本千晶氏

 主人公の王子タムドクが、さまざまな苦難を乗り越えながら、自らの運命を受け入れ、チュシンの王へと成長していくさまは、まさに、この公演より星組のトップスターとして新たなスタートを切った柚希礼音(ゆずき・れおん)さんの姿そのものだ。

 この作品は、2009年1月に花組で上演された「太王四神記」のバージョン2である。花組版との一番の違いは、花組バージョンの冒頭にある、神話の時代のファヌン、カジン、セオの伝説の場面が星組バージョンでは、まるまるカットされていることだ。

 そして、サブタイトルに「新たなる王の旅立ち」と銘打たれているように、その分を使って主人公タムドクの成長物語がより丁寧に描かれている。原作が持つ2000年の時を超えるスケール感はやや薄まった感があるが、その分、人間ドラマとしての濃さが増したといえるだろう。

 新生星組の見どころのひとつは何といっても、柚希礼音さん、夢咲ねね(ゆめさき・ねね)さん、凰稀かなめ(おうき・かなめ)さんのスリートップのゴージャスな並びだ。3人ともにすらりと背が高く、目を惹き付けるスタイルの持ち主という点は共通しているが、役者としての個性はそれぞれに違う。

 往年のビッグスターを髣髴とさせる大らかさ、包容力が持ち味の柚希さんに対して、夢咲ねねさんには、いかにも「イマドキの娘役」らしい不思議な雰囲気がある。したがって、夢咲さん演じるヒロインのキハは、数奇な運命を背負いながらも、等身大に悩み恋するひとりの女性である。

 雪組ではAQUA5メンバーとして注目を集め、このたび組替えで二番手男役となった凰稀かなめさん。柚希礼音さんの輝きが「紅い太陽」とすれば、さながら凰稀かなめさんは「蒼い月」の輝きだ。そんな凰稀さん演じるヨン・ホゲは、物語の後半、自らの狂気のとりこになり、滅びゆく姿こそが圧倒的に美しい。

 この3人をみて、「星組カラーの復活」を喜ぶファンもたくさんいるだろう。タカラヅカの5組には、伝統的な「組カラー」というものがある。最近は、トップスターの入れ替わりも激しいし、組替えも増えたため、その分「組カラー」は薄まったといわれる。それでも、「組カラー」を愛し懐かしむファンは多いのだ。

 たとえば「ダンスの花組」「日本物の雪組」といった具合。月組大地真央(だいち・まお)さん、天海祐希(あまみ・ゆうき)さん。フレッシュな感じを愛する「宙組ファン」も増えつつある。

 そして星組といえば、鳳蘭(おおとり・らん)さんに代表されるスケール感のあるトップ率いる、熱くゴージャスな組という印象。その「典型的な星組らしさ」が今、長身3人の揃い踏みで、蘇ろうとしている。

 加えて、新トップ柚希礼音さんは、今のタカラヅカきっての踊り手でもある。今回のフィナーレでも、本編でダンス場面が少なかった分、これでもかといわんばかりにダイナミックに踊りまくる。その姿をみていると、新生星組のこれからのショーへの期待が膨らむ。

 物語の冒頭で若き王子タムドクが歌う、星組バージョンで新たにつくられた曲「蒼穹の彼方へ」がいい。

 「鷹よ 羽ばたけ 爪を隠さずに」

 柚希さんは今年で入団11年目。この年次でのトップ就任は近年では珍しいスピード出世だ。まさに「若き王」の誕生だ。

 初々しくて、ちょっと荒削りで、「これから」を大いに感じさせる。そんな舞台が楽しめるのも「今だけ」。それは、受け継がれる伝統のなかで、常に新たなスターが再生するタカラヅカならではの楽しみなのだ。

 2009年8月14日(金)〜9月13日(日) 星組東京宝塚劇場公演 幻想歌舞劇『太王四神記 Ver.II』−新たなる王の旅立ち−〜韓国ドラマ「太王四神記」より〜 脚本・演出/小池修一郎氏。主演:タムドク=柚希礼音(ゆずき・れおん)さん。 キハ=夢咲ねね(ゆめさき・ねね)さん。  ヨン・ホゲ=凰稀かなめ(おうき・かなめ)さん。