宝塚歌劇支局2009081より。

 水夏希(みず・なつき)さんと愛原実花(あいはら・みか)さんの新トップスターコンビ 披露となった雪組公演「スクリューボール・コメディ ロシアン・ブルー〜魔女への鉄槌〜」(大野拓史氏作、演出)とラテン・ロマンチカ「RIO DE BRAVO!!」(齋籐吉正氏作、演出)が宝塚大劇場で開幕した。


 「ロシアン・ブルー」は、1937年革命20周年にわくモスクワを舞台に、舞台芸術団を引率してモスクワを訪れたアメリカの下院議員アーノルド(水さん)が、鉄の女の異名をとるソ連の女性官僚イリーナ(愛原さん)にレビューの上演を却下されたことから始まる騒動を描いたコメディ。

 大野氏らしい凝った作劇で、発端は18世紀のロシアから始まる。迫害されてばらばらになる魔法使いの一族のくだりがダンスで表現され、その子孫が200年後のモスクワで敵同士として再会するという設定。これが台詞と歌詞で説明されるのだがいまいち聞き取りにくく、なにがなんだかよくわからないままストーリーが展開していく。ここがこの作品の致命傷で、二人が魔法使いであるという前提が分かっていないと興味が半減するため、このあたりの整理が必要だ。

 それさえ理解していれば、スターリンのそっくりさん俳優ミハイル・ゲロヴァニ(汝鳥伶(なとり・れい 専科)さん)や、大テロルの張本人ニコライ・エジェフ(未来優希(みらい・ゆうき)さん)はじめ宝塚歌劇とは思えない過激な実在の人物が次々に登場、当時の米ソの政治状況にまで踏み込んだうえエルンスト・ルビッチ監督の傑作コメディ「ニノチカ」をそのままモスクワに移したような内容にファンタジーをまぶした展開は、感触としてはなかなか骨があって面白い。なんと労働歌「インターナショナル」のオーケストラ演奏まで飛び出すのだから、これは画期的な舞台かも。


 しかし、凝りすぎて笑うに笑えないギャグやワキにいたるまで大勢のキャラクターを作りすぎて逆に混乱を招いている部分もあったりで、やりたいことが分かるだけに靴の上からかゆい足をかいているようでまだまだ完成品とはいえない。水さん、愛原さんを軸にしたすっきりしたラブコメにした方がわかりやすいだろう。日がたってこなれてきたらとも思うが、そういう時点のものでもなさそうだ。夏休みに初見で見る家族連れにはかなり不親切な舞台ではある。


 とはいえ水さんは、台詞でもゴージャスな顔と表現されるように、かっこよさにますます磨きがかかり、アーノルドを楽しんで演じている感じが客席にもダイレクトに伝わる。

 相手役の愛原さんは、歌唱が不安定なのが心配だが、演技的には安定感があり、水さんとの相性も悪くない。ただ、まだいくぶん緊張気味で鉄の女から柔らかくなっていく部分でまだまだ硬いのがおかしい。トップ披露の役というにはやや難しかったかも。肩の力を抜けばさらによくなるだろう。




 ヘンリー役の彩吹真央(あやぶき・まお)さん、グレゴリー役の音月桂(おとづき・けい)さんは、それぞれの立場に似合った役どころで、いずれも軽くこなしているという感じ。

 早霧せいな(さぎり・せいな)さんと沙央くらま(さおう・くらま)さんがレビュー団の一員として登場。華やかな部分を受け持っているが、明るい個性が際だちなかなかさわやかだ。

 タイトルの「ロシアン・ブルー」は革命以来ソ連から姿を消したという幻の猫の種類の名前。意味深ではあるが、それが何を象徴しているのかはよく分からなかった。

 その点ラテン・ロマンチカ『RIO DE BRAVO!!(リオ デ ブラボー)』は単純明快なラテンショー。モスクワから宝塚経由リオ・デ・ジャネイロという人を食ったオープニングも楽しく、いきなり手拍子が巻き起こるなどテンポ抜群だ。リオの朝から夜までの一日を歌と踊りで綴っていくもので「ナイト・アンド・デイ」「キャリオカ」と宝筭でもおなじみのラテンの名曲を新しいアレンジと振り付けで見せたり、ボサノバ、サンバさらにJポップスまで耳馴染みの曲のオンパレード。中詰めで出演者が持つ金色のポンポンは売店で売っていて観客を巻き込んで盛り上がる。これは水さんのアイデアだとか、面白いことを考えついたものだ。


 ショーでは早霧さんが、水さん、彩吹さん、音月さんに続く4番手の立場であることを鮮明に打ち出しており、中詰めのあとの彼女のためのサッカーの場面が印象的だ。あと沙央さん、大湖せしる(だいご・せしる 2002年入団)さん、蓮城まこと(れんじょう・まこと 2003年入団)さんの活躍場面も飛躍的に増え、全体的にフレッシュな印象。娘役では大月さゆ(おおつき・さゆ 2003年入団)さんが大きなウェートを占め、芝居でもナレーションを担当するなど本来の実力を発揮している。また専科の汝鳥さんがショーでもゴッドファーザー役で登場、貫録を見せた。