さかせがわ猫丸さんのしごと

大和悠河サヨナラ公演、熱くて強いタニちゃんにドキドキ』 2009年4月21日 ライター・さかせがわ猫丸さん
 
 ついに大和悠河(やまと・ゆうが)さんが退団の時を迎えました。サヨナラ公演は「薔薇に降る雨」。作・演出の正塚晴彦氏といえば、男の生き様をハードボイルドタッチで描く名手。キュートなタニちゃん(大和の愛称)のラストが<本格的な大人の男>とは、あらたな魅力で最後を飾るのでしょうか!?

 今公演はまず第95期初舞台生の挨拶から。緑の袴でずらりと勢ぞろいし、激しく緊張しながら歌うタカラジェンヌ1年生たち。ヅカファン歴も長い方々は、この段階で<青田買い>するのだそう。「右から○番目、いけるかも」などと見極め、スターへの成長を見守るのも宝塚の醍醐味の一つ。まだお化粧も慣れていないため、みんな微妙な雰囲気の中、確かに何かを予感させる子はいました。私は、朝海ひかる(あさみ・ひかる)似の子と、エクボの子をチェック!

 そしていよいよ芝居の幕が上がりました。真っ暗な中、スポットライトがあたったそこには、もちろん主人公ジャスティン(大和さん)。まるで体の一部であるかのように自然に着こなすスーツ姿は、しびれるほどにカッコいい! オープニングから舞台装置の盆がまわる洒落た演出は、これからどんな話が展開するのかいきなりワクワクさせてくれます。

 ――調査会社を経営するジャスティンは、投資者に連れてこられたクラブで、偶然、忘れえぬ人に再会する。7年前、山道を裸足で歩いていたところを助け、ダンスパーティーで再び出会い、燃えるような恋をしたイヴェット(陽月華=ひづき・はな=さん)だ。だが彼女は社交 界デビューを前にした貴族の娘。ただの青年との恋が許されるはずもなく、すべてを捨てて生きようと誘うジャスティンの前に、結局彼女は現れなかった――。回想シーンのストーリーテラージャスティン自身なのも、切ない過去を印象付けています。

 そんな2人が再会して、燃え上がるのは当然のなりゆき。だがやはり貴族であるイヴェットは、家族を捨てるわけにはいかないと抗う。2人だけで語り合う長いシーンは、これぞ正塚ワールドの真骨頂! 許されない恋、燃え上がる想いに揺れ動く心情をじっくりと描きます。すでに船舶会社社長グザヴィエ(悠未ひろゆうみ・ひろ=さん)との政略結婚が決まっているイヴェットはひたすら自分の想いを封印しようとするが、それでも強引に引き寄せるジャスティン。熱くて強い大和の演技に、イヴェットだけでなくこっちまでドキドキさせられました。

 ジャスティンの仕事に協力することになった投資者のヴィクトールを演じるのは蘭寿とむ(らんじゅ・とむ)さん。相変わらずニヒルでキザで、でも憎めない蘭寿らしさが生かされています。そんな矢先、伯爵家の会計士(七帆ひかる=ななほ・ひかる=さん)がある調査を依頼にやってきた。イヴェットの父・ジェローム伯爵(寿つかさ=ことぶき・つかさ=さん)が投資していた会社が突然倒産し、社長が失踪したというのだ。早速、調査を始めるイヴェットとヴィクトール。するとこの事件の裏には、とんでもない策略がめぐらされていることがわかり…。

 今回の大和さんはハードボイルドな大人の男を徹底的に演じ、「そない怒らんでも」というくらい怒鳴り声も頻発。今まであまり見たことのない魅力を感じられるかも。さらに衣装もさりげなく着替えていて、カジュアルからシンプルスーツにフォーマルまで、いろんなスタイルを楽しませてくれます。北翔海莉(ほくしょう・かいり)さんはイヴェットの弟・フランシス役で若々しくさわやかに。得意の歌をもう少し聴きたかったという思いは、ショーで堪能させてもらいました。今回、大和さんと陽月さんのほかにも退団者は8人いますが、中でも七帆さんは伯爵家の会計士を誠実に、美羽あさひ(みわ・あさひ)さんはジャスティンの婚約者でこれまた切なく揺れる女心をナチュラルに演じていました。定評のある宙組のアンサンブルはいつもにまして素晴らしく、スーツの男役群舞もふんだんに見られます。

 劇中に描かれる、白いドレスのイヴェットと黒燕尾のジャスティンが無言で手を取り踊りだすダンスがとても美しく、彼らが演じてきたこれまでの舞台が浮かぶ余白を与えてくれるようで、心に沁みる印象的なシーンでした。

 さまざまな人間模様をリアルに描きながら、たどり着いたラストはサヨナラをリンクさせる旅立ちのシーン。ジャスティンは1人で、それとも2人で…? 余韻はぜひ劇場で味わってください。

 ショーは「Amourそれは…」。パステルカラーの娘役群舞や、カラフルな原色スーツ男役群舞、妖精風もあり、さすがロマンチック・レビュー。春らしいさわやかな正統派ショーを堪能させてくれます。1998年の宙組ショー「シトラスの風」で使われた曲「夢・アモール」が登場するという、懐かしくも嬉しい演出も。スパニッシュ風の情熱的なシーンでは陽月が光ります。シャープなダンスが売りで、以前から男役を率いて踊るのがとても似合っていましたが、オトコマエでカッコいい娘役ですよね。珍しいのが、手話を使って歌う蘭寿さんの銀橋ソロ。ラブソングを手話で表現なんて、とてもロマンチックで、これはぜひ自分でも覚えたい! 初舞台生のロケットは、白い羽をいっぱいつけた華やかな衣装で元気一杯のラインダンス。迫力満点でフレッシュさも抜群です。もちろん大階段での黒燕尾のボレロもたっぷり堪能できます。大和さんを含め退団する男役はこれが最後の黒燕尾になるでしょう。ここでしか味わえない儚くも強く美しい彼女たちの姿と伝統美に胸を打たれると同時に、毎回宝塚への愛を深めてしまうシーンです。
 サヨナラ色はそれほど強くありませんが、これぞ宝塚が原点とした綺麗で清潔感あふれたショー、そして大人の恋を描いた芝居は、大和さんと陽月さんのラストにふさわしい花道となったに違いありません。

 この回の評は○○さんのさんが付いてなかったのが不満→つけてみました。