090424 宝塚歌劇 ただいま上演中

 ☆2009年4月17日(金)〜5月18日(月) 宙組宝塚大劇場公演 ミュージカル・ロマン『薔薇に降る雨』作・演出/正塚晴彦氏。併演はロマンチック・レビュー『Amour それは・・・』作・演出/岡田敬二氏。

  

 

朝日新聞「ステージレビュー」より引用。 

 ついに宙組トップスターの大和悠河(やまと・ゆうが)さんが、退団の時を迎えました。サヨナラ公演は「薔薇に降る雨」。作・演出の正塚晴彦氏といえば、男の生き様をハードボイルドタッチで描く名手。キュートなタニちゃん(大和さんの愛称)のラストが<本格的な大人の男>とは、あらたな魅力で最後を飾るのでしょうか!?

 今公演はまず第95期初舞台生の挨拶から。緑の袴でずらりと勢ぞろいし、激しく緊張しながら歌うタカラジェンヌ1年生たち。ヅカファン歴も長い方々は、この段階で<青田買い>するのだそう。「右から○番目、いけるかも」などと見極め、スターへの成長を見守るのも宝塚の醍醐味の一つ。まだお化粧も慣れていないため、みんな微妙な雰囲気の中、確かに何かを予感させる子はいました。私は、朝海ひかる(あさみ・ひかる)さん似の子と、エクボの子をチェック!

 そしていよいよ芝居の幕が上がりました。真っ暗な中、スポットライトがあたったそこには、もちろん主人公ジャスティン(大和さん)。まるで体の一部であるかのように自然に着こなすスーツ姿は、しびれるほどにカッコいい! オープニングから舞台装置の盆がまわる洒落た演出は、これからどんな話が展開するのかいきなりワクワクさせてくれます。

 ――調査会社を経営するジャスティンは、投資者に連れてこられたクラブで、偶然、忘れえぬ人に再会する。7年前、山道を裸足で歩いていたところを助け、ダンスパーティーで再び出会い、燃えるような恋をしたイヴェット(陽月華(ひづき・はな)さん)だ。だが彼女は社交 界デビューを前にした貴族の娘。ただの青年との恋が許されるはずもなく、すべてを捨てて生きようと誘うジャスティンの前に、結局彼女は現れなかった――。回想シーンのストーリーテラージャスティン自身なのも、切ない過去を印象付けています。

 そんな2人が再会して、燃え上がるのは当然のなりゆき。だがやはり貴族であるイヴェットは、家族を捨てるわけにはいかないと抗う。2人だけで語り合う長いシーンは、これぞ正塚ワールドの真骨頂! 許されない恋、燃え上がる想いに揺れ動く心情をじっくりと描きます。すでに船舶会社社長グザヴィエ(悠未ひろ(ゆうみ・ひろ)さん)との政略結婚が決まっているイヴェットはひたすら自分の想いを封印しようとするが、それでも強引に引き寄せるジャスティン。熱くて強い大和さんの演技に、イヴェットだけでなくこっちまでドキドキさせられました。

 ジャスティンの仕事に協力することになった投資者のヴィクトールを演じるのは蘭寿とむ(らんじゅ・とむ)さん。相変わらずニヒルでキザで、でも憎めない蘭寿さんらしさが生かされています。そんな矢先、伯爵家の会計士(七帆ひかる(ななほ・ひかる)さん)がある調査を依頼にやってきた。イヴェットの父・ジェローム伯爵(寿つかさ(ことぶき・つかさ)さん)が投資していた会社が突然倒産し、社長が失踪したというのだ。早速、調査を始めるイヴェットとヴィクトール。するとこの事件の裏には、とんでもない策略がめぐらされていることがわかり…。

 今回の大和さんはハードボイルドな大人の男を徹底的に演じ、「そない怒らんでも」というくらい怒鳴り声も頻発。今まであまり見たことのない魅力を感じられるかも。さらに衣装もさりげなく着替えていて、カジュアルからシンプルスーツにフォーマルまで、いろんなスタイルを楽しませてくれます。北翔海莉(ほくしょう・かいり)さんはイヴェットの弟・フランシス役で若々しくさわやかに。得意の歌をもう少し聴きたかったという思いは、ショーで堪能させてもらいました。今回、大和さんと陽月さんのほかにも退団者は8人いますが、中でも七帆さんは伯爵家の会計士を誠実に、美羽あさひ(みわ・あさひ)さんはジャスティンの婚約者でこれまた切なく揺れる女心をナチュラルに演じていました。定評のある宙組のアンサンブルはいつもにまして素晴らしく、スーツの男役群舞もふんだんに見られます。

 劇中に描かれる、白いドレスのイヴェットと黒燕尾のジャスティンが無言で手を取り踊りだすダンスがとても美しく、彼らが演じてきたこれまでの舞台が浮かぶ余白を与えてくれるようで、心に沁みる印象的なシーンでした。

 さまざまな人間模様をリアルに描きながら、たどり着いたラストはサヨナラをリンクさせる旅立ちのシーン。ジャスティンは1人で、それとも2人で…? 余韻はぜひ劇場で味わってください。


 ショーは「Amourそれは…」。パステルカラーの娘役群舞や、カラフルな原色スーツ男役群舞、妖精風もあり、さすがロマンチック・レビュー。春らしいさわやかな正統派ショーを堪能させてくれます。1998年の宙組ショー「シトラスの風」で使われた曲「夢・アモール」が登場するという、懐かしくも嬉しい演出も。スパニッシュ風の情熱的なシーンでは陽月さんが光ります。シャープなダンスが売りで、以前から男役を率いて踊るのがとても似合っていましたが、オトコマエでカッコいい娘役ですよね。珍しいのが、手話を使って歌う蘭寿さんの銀橋ソロ。ラブソングを手話で表現なんて、とてもロマンチックで、これはぜひ自分でも覚えたい! 初舞台生のロケットは、白い羽をいっぱいつけた華やかな衣装で元気一杯のラインダンス。迫力満点でフレッシュさも抜群です。もちろん大階段での黒燕尾のボレロもたっぷり堪能できます。大和さんを含め退団する男役はこれが最後の黒燕尾になるでしょう。ここでしか味わえない儚くも強く美しい彼女たちの姿と伝統美に胸を打たれると同時に、毎回宝塚への愛を深めてしまうシーンです。

 サヨナラ色はそれほど強くありませんが、これぞ宝塚が原点とした綺麗で清潔感あふれたショー、そして大人の恋を描いた芝居は、大和さんと陽月さんのラストにふさわしい花道となったに違いありません。

宝塚プレシャスより引用。

 宙組のトップスターコンビ、大和悠河さん&陽月華さんのサヨナラ公演「薔薇に降る雨/Amourそれは…」が開幕した。アイドル的なルックスで下級生のころから注目され続けた2人。ラストステージも絵から抜け出てきたような、息をのむ美しさだ。大和は「最後だから、という特別な思いはなく“とにかくいい物を”という一心で作り上げてきた」と平常心を強調した。

 黒のエンビに純白のイブニングドレス。まばゆいばかりのピンスポットの中、デュエットを披露する2人の姿は、まるで絵から抜け出てきたような美しさだ。食い入るように見つめる客席からはため息さえ漏れる。
 熱狂的なファンは特別な思いで2人を見つめるが、当の大和さんはしっかりと自分の足元を見つめていた。
 「サヨナラだから、という特別なことはないですね。いつも通り。平常心。どこかにそういう意識はあるかもしれないけれど“とにかくいいモノを作りたい”という一心でやってきました」。平常心を強調する。

 
 ミュージカル「薔薇に降る雨」はフランス・ニースを舞台にした究極のラブロマンス。身分の違いから離ればなれになった2人が7年後に再会し、さまざまなしがらみを乗り越えていく。大和さん演じるジャスティンは、イケメンなだけでなく彼女を守るため、ときに声を荒らげ、髪を振り乱し、ときに少年のような目で夢を語ったり。「集大成」らしく、1本の作品で多彩な顔をのぞかせている。
 入団当初から注目され続ける存在だった。大きな瞳に笑うとくっきり浮かぶエクボ。劇画の世界から飛び出してきたようなルックスで誰をもとりこにした。入団1年目にしかチャンスがない阪急電鉄の初詣でポスターモデルを務め、わずか研4でバウホール主演…。走り続けたタカラヅカ人生だった。

 「入団してすぐ、抜てきしていただくことが多かったので、常に前向きに進める自分でいれたんです。『辛い思い出』ってホント、ないんですよね。自分が下手だなとか、この役ができないっていう思い出はあるけれど『辛い』という感情はなくて本当に幸せな時間をずっと過ごしていました」。そう振り返る。
 「タカラヅカで大きな羽を背負う」。小さいころからの夢を実現させ、そして今、大和さんは最後の舞台を華やかに飾って去ろうとしている。「一点の曇りもない」タカラヅカ生活から次のステージへ。「さあ、これから何をしましょうか? って思うのが正直なところ」とおどけて見せるが、まずはサヨナラ公演を納得いく形でしめくくること。彼女の目にはそれしか映っていないようだ。【土谷美樹】

 ◆「薔薇に降る雨」 上流階級の人々でにぎわうフランスの港町ニース。「スポーツカーを自分で作る」という夢を持つ青年ジャスティン(大和さん)と、伯爵家の令嬢イヴェット(陽月さん)は運命的な出会いを果たしそれから毎日のようにデートを重ねていた。
 しかし、ジャスティンのもとにある日突然、彼女から「もう会えない」という手紙が届く。伝統と家柄を重んじる貴族の令嬢と一青年との関係が許されるはずもなかった。両親が無理やり引き裂いたのだった。
 それから7年、調査会社を経営するようになったジャスティンと、投資の失敗で実家が没落したイヴェットが再会。彼女は大富豪グザヴィエ(悠未ひろさん)との結婚を受け入れざるを得ない状況に陥っていた。イヴェットの実家が失敗した投資に何かワケがあるとにらんだジャスティンは調査に乗り出した。さまざまな因縁が絡んでいたことが明らかになり、2人の関係も意外な展開を迎える。レビュー「Amourそれは…」と2本立てで2009年5月18日まで。

 ☆大和悠河(やまと・ゆうが)さん 8月4日、東京都文京区出身。東京家政大付属女子中を経て95年「国境のない地図」で初舞台。月組に配属。入団当初から華やかなルックスが話題で阪急電鉄の初詣でポスターモデルを務めた。97年「EL DORADO」(主演・真琴つばさ)で新人公演初主役を果たし、その後6作品で新公主役。同年12月には「ワン・モア・タイム!」で成瀬こうきとともにバウ初主演。翌年には「シンデレラ・ロック」でバウ単独主演を果たした。03年2月、宙組に組替えとなり07年3月、シアター・ドラマシティ公演「A/L」から前トップ貴城けいさんの退団に伴いプ宙組トップスターとなった。身長169センチ。愛称「タニ」。

 ☆陽月華(ひづき・はな)さん 9月2日生まれ、東京都足立区出身。都立飛鳥高を経て00年「源氏物語あさきゆめみし」で初舞台。星組に配属となり03年、日生劇場公演「雨に唄えば」でヒロインに抜てきされ注目を集めた。同年7月「王家に捧ぐ歌」で新人公演初ヒロイン。その後06年「ベルサイユのばら」のヒロイン、マリー・アントワネット役まで計5作品で新人公演のヒロインを務めた。06年「フェット・アンペリアル」でバウ初ヒロイン。07年1月、宙組に組替えとなり同3月紫城るいさんの退団を受けて宙組トップ娘役に。02年から現在も池田銀行のイメージキャラクターを務めている。身長164センチ。愛称「うめ」


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