ファンにとっての『宝塚』その4

  

     

  

雪組宝塚大劇場公演 舞踊パフォーマンス 『風の錦絵』 作・演出/石田昌也氏。上演は4月13日(月)まで。

解説=「風」をテーマにした日本物の舞踊ショー。春一番、木枯らし、暴風、旋風、疾風、順風、逆風、隙間風、涼風、臆病風、風通し、風化、風流、風雅、風評、風当たり、風の便り、風まかせ……。「風」の持つイメージを様々な角度からとらえた、伝統的な中にも新しい息吹を感じさせる日本物のショー。

朝日新聞ヅカ☆ナビより引用。

 かつてタカラヅカにおいて、「日本物のショー」はおなじみの演目のひとつだった。若衆姿の男役が華やかに舞い踊るショー。ただし、演奏はオーケストラなのだが。私が子どものころには、春休みにタカラヅカに連れて行ってもらうたびに「春のおどり」を観ていたような覚えがある。実際調べてみると、1970〜80年代には年1回ほどのペースで日本物のショーが上演されている。

 ところが、この「日本物のショー」の上演が近年ではめっきり減ってしまった。最近では2007年星組の『さくら』、その前は2003年月組の『花の宝塚風土記』というペースだ。やはり、邦楽や日本舞踊に馴染みのない若い世代には退屈でつまらないという印象が強いのかもしれない。

 その、「日本物のショー」が久々にお目見えした。宝塚大劇場にて上演中の雪組公演『風の錦絵』だ。正直、「ちょっとビミョー…」と感じたファンも少なくないだろうが、どうしてどうして。この『風の錦絵』、従来からの「日本物のショーはつまらない」というイメージを返上すべく、今までにないさまざまな工夫がこらされている。

 プロローグは定番の「白浪五人男」、だがよくよくみると「AQUA5」の面々だ! 「女心を盗む、恋泥棒の五人組」という設定らしい。確かに…この五人組なら恋泥棒はお手のものに違いない!?  粋な着流し姿のAQUA5がみられるのも、ファンにはうれしい。だが、メンバーのひとりである凰稀かなめさんが星組に異動してしまうので、5月の東京公演ではこの並びを堪能することはできないのは残念。

 続いては、観光客にも人気の高い「おわら風の盆」を題材にとった場面だ。雪組二番手男役の彩吹真央さんが、宝塚歌劇団の日本舞踊の大御所、松本悠里さんの胸を借りる形で踊る。

 中盤の見どころは上杉VS武田の対決を、雪組の新旧トップの対決で勇壮にみせる「風林火山」。大河ドラマ天地人」を意識してのことだろう。日本舞踊を得意とする専科の轟悠さんには、ストイックな上杉謙信がお似合いだ。対する武田信玄雪組トップスターの水夏希さん。重厚な信玄像を宝塚スターらしくみせる。『カラマーゾフの兄弟』の無精髭で観客を魅了して以来、急速に「髭の似合うスター」になりつつある水夏希さんである。

 「秋風と菊人形」の場面では、同期コンビの白羽ゆりさんと音月桂さんが、それぞれ静御前源義経に扮して雅やかに踊る。
 ふたりには、TVのバラエティ番組で「宝塚風:だるまさんがころんだ」(止まったとき、タカラヅカらしいポーズをとらなければならない)をやったとき、同期ならではのコンビネーションで「お姫さま抱っこ」ポーズをみせたというエピソードがある。
 トップ娘役の白羽さんは本公演での退団を発表しているから、こんな同期デュエットが観られるのもこれが最後。座付き演出家ならではの心憎いキャスティングだ。

 


 フィナーレではなんと、「山寺の和尚さん」のメロディーによる小僧さんのラインダンスもある。小僧さんのなかでひときわでっかくて目立つイタズラ坊主が緒月遠麻(おづき・とおま=174cm)さんだ。和尚さんにポカポカ叩かれながら真面目くさって踊る姿が笑いを誘う。

 締めくくりは、これまた定番「さくら」の総踊りなのだが、これがアップテンポのジャズアレンジ。日本舞踊独特のまったり感は感じられないまま、ノリノリで幕となる。

 あっという間にもうおしまい? …それもそのはず。今回のショーはわずか35分という短さなのだ。昔からの日本物好きとしては寂しいけれど、なじみのない人がサワリを楽しむには、このくらいがちょうど良いのかもしれない。日本物のショーの楽しさのエッセンスをギュッと凝縮、味付けは現代風。