宝塚生徒は 皆美人です 『Apasionado!!(アパショナード)』


2008年11月7日(金)〜12月11日(木) 月組宝塚大劇場公演 ファナティック・ショー『Apasionado!!(アパショナード)』 作・演出/藤井大介氏。 解説=“Apasionado”はスペイン語で「熱い」「情熱の男」という意味。「熱」をテーマに、熱いリズム、熱い血潮、燃え上がる恋、嫉妬の炎、命を賭けた情熱など、様々な「熱」の形を具現化した、情熱的でエネルギーに満ちたダンシング・レビュー。パッショネイトな真紅の炎、強いエネルギー、そして時にはクールさの中の青い炎を感じさせる、ショースター瀬奈じゅんさんの魅力を十二分に見せる、大人の雰囲気のショー作品。併演は 源氏物語千年紀頌夢の浮橋脚本・演出/大野拓史氏。


朝日新聞「ヅカ★ナビ!」より。

 12月11日、宝塚大劇場にて千穐楽を迎えたファナティック・ショー「Apasionado!!」は、さすが末尾に「!」がわざわざ2つもついているだけのことはあった。
 幕開け、小林幸子も真っ青の巨大豪華衣装に身を包んだ瀬奈じゅん(せな・じゅん)さん の姿に客席がどよめいたかと思うと、スパニッシュの衣装に身を包んだ男女による熱い歌と踊りが繰り広げられる。

 大ベテラン萬あきら(ばん・あきら 専科男役 1970年入団)さん磯野千尋(いその・ちひろ 専科娘役 1974年入団)さん が客席まで降りていき、かつてダンサーとしてショーで大活躍したころのふたりを知っているオールドファンをシビレさせる。観客をつぎつぎとアッと驚かせてくれるサービス満点のショーなのだ。

 なかでも一番の見どころは、南国の花々と蜜蜂の王の絡みを描いた「第4夜 熱帯夜」だろう。とりどりの衣装に身を包んだ花々が、歌い踊りながら銀橋を駆け抜け、これでもかといわんばかりに美を競い合う。ところが、この花たち、やけに自己主張が強い!?
そう、彼ら…いや彼女たちは、じつは月組の誇るイケメン男役7人(越乃リュウ(こしの・りゅう)さん、遼河はるひ(りょうが・はるひ)さん、桐生園加(きりゅう・そのか)さん、青樹泉(あおき・いずみ)さん、星条海斗(せいじょう・かいと)さん、龍真咲(りゅう・まさき)さん、明日海りお(あすみ・りお)さん)なのだ。

 博多座公演(2008年8月1日(金)〜8月24日(日))『ME AND MY GIRL』でジャッキー役を演じた龍真咲さんや、ショーの他の場面でも女役を演じている明日海りおさんなどは、「なるほど、確かにキレイよね」と思うけれど、それはあくまで予想の範囲内。
 むしろ、いつもは「男らしい」ダンスシーンが魅力で、女性姿にはなかなかお目にかかることができない遼河はるひさん、桐生園加さんあたりのほうが見応え十分。それは一種の「怖いもの見たさ」なのかもしれない。組長の越乃リュウさんに至っては、黒の衣装に赤毛でバッチリ決め、若手にはかもし出せないアダルト路線で迫ってくる。いつもの男役姿とのギャップが一番大きかったのは、金髪の色っぽい西洋風美人に大変身の星条海斗さんだろう。青樹泉さんもキュートで可愛らしかった。

 そして、トリを飾るのが月組二番手男役の霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん。蘭の花オルキデアに扮した霧矢さんが、蜜蜂の王の瀬奈じゅんさんとともに、ノリノリで歌い踊るのだ。ウインクあり、投げキッスありのラブラブぶりで、まるで、「女」に戻った自分をめいっぱい味わいつくそうとしているかのよう。

 とにかくこの場面、「『彼女たち』はじつは男役」ということを知らないと、その楽しみも半減してしまう。それどころか、「タカラヅカの娘役って意外と逞しい人が多いのね」と誤った理解をしてしまう。タカラヅカ初体験の人は、気をつけてご覧になってください。

   


 今回ほど大々的ではないにせよ、男役に女役をさせる場面、タカラヅカのショーでは意外と多い。ファンもこういう場面が好きなのだ。ファンは、「男役の○○さん、女になったらこうなんだ!」とまず驚き、「でも、もともと美人なんだから、女になってもキレイで当然よね」と胸をなで下ろす。 男(役)としての○○さんと、女性としての○○さん、2つの視点から楽しめるというわけだ。こういう場面だらけだとシツコイ(?)が、ちょっぴりあるとショーをより美味しくするスパイスのような場面である。

 もともと女性なのだから、女性が女性の姿をして何の不思議もないはずなのに、どうしても「女装」に見えてしまうのが不思議なところ。その理由は、ひとつには男役用のりりしい化粧のままであること、また、男役さんは日頃から娘役さんをリフトしたり、剣を振り回したりして鍛えているので、とくに腕から肩のあたりが逞しく鍛えられていることにあるのだろう。「女」でなく「女装」にみえてしまうのも、ひとえに日々の男役としての精進の結果なのである。(中本千晶氏)