今年最後の宝塚大劇場  『 

 秋日和 行楽にふさわしい気候でした。月組源氏物語千年紀頌「夢の浮橋」とファナティック・ショー「Apasinnado!!アパショナード」(11月7日〜12月11日)を宝塚大劇場で観てきました。
源氏物語千年紀年の年末公演にあたり、源氏物語の最終章「宇治十帖」を取り上げ舞台化します。宮中を華やかに彩る貴公子・匂宮、匂宮と兄弟のように育った薫、そして二人の貴公子から想いを寄せられることになる浮舟。三人を巡る切ない恋を、宝塚歌劇らしい華やぎと爽やかさの中に描き出した作品です。大野拓史の大劇場デビュー作。


 「Apasinnado!!アパショナード」(始まる前です) → 

宝塚歌劇支局」より。

 『夢の浮橋』は「源氏物語」の最終章である「宇治十帖」のくだりを大劇場単独演出デビューとなった大野氏が舞台化したもの。宝塚では以前、酒井澄夫氏脚本、演出による「浮舟と薫の君」が星組で上演されたことがある。衣通月子さんが浮舟、安奈淳さんが薫の君、但馬久美さんが匂宮という配役で、三人の三角関係を主にした内容だった。

 今回は、匂宮(兵部卿宮)を中心に、光源氏の血を引く皇族に生まれたため、自由に生きられない青年の苦悩を描いている。いかにも大野氏らしい正攻法のアプローチ、それはそれで好感が持てる。光源氏の再来といわれるプレイボーイであり、幼なじみの薫の君の思い人である浮舟をも横取りしてしまうわがままな男なのだが、常になにか影をもち、世をすねているような感じに描かれており、瀬奈さんがその雰囲気をよく伝えている。ただ、それが何なのか、いまいちうまく伝わっていないところが一番の弱点か。浮舟との一夜のあとの無常感がいっこうに浮きあがらない。原作の登場人物をすでに知っているものとして描いていることから原作に疎い観客にはかなり不親切なセリフや展開なのも問題か。

 とはいうものの、オープニングの琴の音の前奏から宇治十帖の世界はかなりうまく表現されており、宇治田楽を効果的に配したミュージカル処理もうまく、宝塚歌劇の日本ものの伝統をうまく伝えた。王朝衣装に身を包んだ瀬奈さんのりりしい美しさもみどころだ。

 薫の君の霧矢大夢(きりや・ひろむ)さんもさすがの実力。浮舟と匂宮との不倫を知ったあと、怒りを抑えられず、事実を夕霧に告げてしまうあたりの腹芸は見事だった。

 浮舟に抜擢された羽桜しずくは、清楚な雰囲気はぴったりだったが、メークに工夫が欲しい。それと声質はいいが歌唱が弱い。これではせっかくのソロがもったいない。さらなる精進を。

 小宰相の君、実は傀儡(くぐつ)の女に扮した城咲あいは、唯一、貴族の女性ではない視点から匂宮を見るという役割を与えられており、非常に新鮮。城咲の奔放な雰囲気ともマッチして、もうけ役だった。

 他には匂宮の兄、二の宮役の遼河はるひが匂宮とは対照的な青年像を巧みに表現した。「ミー&マイガール」「グレート・ギャツビー」とこのところ好調。ワンポイントでも存在感がつきめきめき、華がでてきた。

 遼河の相手役の紅梅の中の君に扮した蘭乃はなはいかにも宝塚の娘役といった可憐雰囲気がよく出ていた。

 月組期待の若手陣のなかではやはり道定役の龍真咲と五の宮役の明日海りおが際だって光る。この2人、対照的な個性でこれからも切磋琢磨してほしい。