米政権、大きな衝撃 副大統領補佐官起訴

2005年10月29日 朝日新聞引用

 チェイニー米副大統領の側近が28日、イラク戦争にかかわる情報操作に絡んで偽証などの罪で起訴され、ホワイトハウスは重苦しい空気に包まれている。イラク駐留米軍の死者数が2000人に達した直後だけにイラク戦争を正当化してきた政権への不信は広がるばかりだ。ブッシュ大統領は側近に再び捜査が及ぶかもしれないとの不安を抱えながら、巻き返しを図ろうと躍起になっている。

 「ワシントンを抜け出す機会を与えてくれてありがとう」。リビー首席副大統領補佐官の起訴を決めた大陪審が審理している最中の28日、バージニア州で演説した大統領がこう切り出すと聴衆がわいた。25日にイラクでは米兵死者が2000人に達し、27日にマイヤーズ氏が最高裁判事の指名辞退に追い込まれ、28日にリビー氏が起訴。大統領にとっては最悪の1週間だった。

 起訴の発表後、大統領が記者団の前に現れた。深刻そうな顔つきで「リビー氏は米国民のためにうむことなく働いてきた。我々はみんな悲しんでいる」との談話を読み上げ、質問に答えず立ち去った。チェイニー副大統領は「起訴された者は無罪と推定されるので、起訴について論評するのは適切ではない」との談話を発表しただけ。政権が受けた衝撃の大きさがうかがえる。

 政府高官が大陪審で宣誓した上での偽証だっただけに、政権への不信は強まっている。

 民主党のリード上院院内総務は「政府高官が国の安全保障や法の支配より政略を優先させた。これは機密情報の漏洩(ろうえい)よりも深刻だ」と指摘。「これこそイラク戦争を正当化し、大統領に逆らう者の信用を傷つけるブッシュ政権の情報操作のやり口だ」と批判した。

 各種の世論調査で大統領の支持率は40%を割り込み、不支持率は50%を超えている。CBSニュースが今月初めに実施した世論調査では、「イラク戦争をやる価値がなかった」という人が64%にのぼり、「価値があった」という人の2倍になった。

 大統領は28日の談話の中で「この経済状態を維持し、最高裁判事をすぐに指名する」と述べ、次の課題に取り組み、スキャンダルからの局面転換を図る構えを見せた。さっそくハリケーン復興事業に総額170億ドル(約2兆円)を投じることを承認するように議会に要請。来週早々にはマイヤーズ氏に代わる最高裁判事を指名すると見られている。

 しかし、1年後に中間選挙を控える議会は、人気の落ちたブッシュ政権から距離を置き始めている。議会対策を担ってきたチェイニー副大統領の威信も傷つき、重要法案や人事案件を今まで通りに成立させられる保証はない。大統領の腹心、カール・ローブ次席補佐官にいつ捜査の手が及ぶかわからないという問題も加わり、綱渡りの政権運営が続きそうだ。