今読んでいる本は いろいろあるけど

わが「転向」 (文春文庫)

わが「転向」 (文春文庫)

◎僕の中の吉本隆明(よしもとたかあき)は、やはり よしもと・りゅうめいです。この本のタイトルで 転向 にかぎ括弧がついているのがビミョウではあります。上記 アマゾンでの取り扱いはユーズド(新中古)価格が、定価390円に対して190円という大健闘な値段であります。
 収録されている わが「転向」 は初出が 文藝春秋1994年1月号で これを大幅改稿したらしい。そこのさわりを紹介しましょう。

 新しい「マルクス」の誕生  
 現在、10年、15年経った後にやってくる事態については、視野は誰にも見えていないのです。小沢一郎だって解決できそうもないし、旧来のマルクス主義ではなおさら処方箋は出せないでしょう。
 ただ、僕は、マルクス主義は確かに死んだけれど、マルクスはもしかしたら10年、15年後に蘇生するかもしれないと思っています。僕が論争した埴谷雄高さん(97年2月逝去)や柄谷行人浅田彰などは、まだロシア・マルクス主義系統の思想が蘇生することがあると思っているようですが、そんなことはありえないです。僕は相当検討して、ありえないと結論づけています。先進国を見れば、マルクスが分析した時代の資本主義から、言ってみれば「超資本主義」へ完全に移行してしまったんだから、マルクス主義が復活するなんてありえません。
 あるとしたら、かつてマルクスが資本主義が興隆し、都会が隆盛し、労働者街ができて公害病としてロンドンで肺結核が流行るのを見て、資本主義はだめだというふうに思ったように、10年、15年後の超資本主義が行き詰った時代に、「新しいマルクス=救世主」が登場し、僕らには思いもよらない思想を提示してくれる時があるかもしれないということです。もちろんその「マルクス主義」は、現在の世界の「左翼」性とは全く関係ないでしょう。そういう「マルクス」なら、ぜひとも誕生してもらいたいですね。僕らはその前座をつとめているのかもしれません。