さかせがわ猫丸さんの宝塚劇評 宝塚大劇場公演「ロジェ」とショー「Rock on!」より


ようやくチケットを入手できそうなので24日(土)に観劇に行こうと思います。

 さかせがわ猫丸さん=大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
 3/19の日記 

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 宝塚大劇場での雪組公演、ミュージカル「ロジェ」が、6月25日、初日を迎えました。トップスター水夏希(みず・なつき)さんと、相手役の愛原実花(あいはら・みか)さんの退団公演でもあります。

 今回の作品は、孤独・復讐・陰謀・組織と、演出家・正塚晴彦さんお得意のアイテム満載でハードボイルドな物語です。クールでシャープな水さんには、シンプルなスーツが最もよく映えますから、その魅力が最大限に生かされる公演となるに違いありません。少女マンガのようなスタイルに、近年は重ねた年月が色気となって加味され、「いや待て。これは架空の男性なのだ、夢の世界なのだ」と、思わず自分に言い聞かせたいほど「男役らしい」水さん。最後の最後まで、その夢を見させていただきましょう!

    


 第二次世界大戦中、突然何者かに両親と妹を惨殺され、一人生き残った少年ロジェ。以来、彼はその復讐を果たすためだけに生きてきた。やがてインターポールの刑事となった今、戦後20数年を経て逃亡を続ける戦犯たちの組織を追っている。組織の全容解明は、家族を殺した犯人シュミットへとつながるに違いないと考えたからだ。育ての親となったバシュレ(未沙のえる/みさ・のえる)とともにひたすら調査を続ける中、ある日、ロジェは武器密輸の情報を入手する。そこへ絡んだ大物投資家が組織に関係していると睨み、パリ市警の刑事リオン(音月桂/おとづき・けい)強制捜査を持ちかける。警察の許可は得られなかったが、なんとしても尻尾をつかみたいロジェは密輸現場の倉庫へと乗り込んだ。

 オープニングは、スクリーンによるモノクロの戦争シーンから。第二次世界大戦当時の本物であろう映像に、やがて人の影が現れ、過去の凄惨な事件がシルエットで映し出されます。大きくなったり小さくなったりする影がスピード感と恐怖を感じさせ、斬新な演出でした。

    

 導入部分から水さんを中心としたスーツスタイルの男役群舞がふんだんに盛り込まれ、まずはショー的な部分をたっぷりと楽しませてもらえます。刑事リオンを演じるのは、次期雪組トップが決まっている音月さん。ロジェの友人として彼を影で支える地味な役柄ですが、この公演が唯一の大劇場2番手経験ですから、彼女にとっても重要な公演となりそう。未沙さんは、正塚さんの作品に欠かせない存在となりました。緊迫するストーリーに挟まれる和みコーナーのごとく、今回もところどころで笑いを誘ってくれます。

 侵入した倉庫の中には、密輸品である武器が多数隠されていた。そこへ怪しげな男たちが、一組の男女を連れてくる。ロジェが身を潜めて様子を伺っていると、その男の口からシュミットの名が発せられた。ロジェは思わず飛び出して男女を救うとともに、男の口から真相を聞き出そうとするが、男はその場で自殺してしまう。男女はレア(愛原)とヤコブ彩那音/あやな・おと)。ナチス戦犯を追うヴィーゼンタール機関の調査員で、組織に拉致されたのだと言う。すべてがつながっていると確信したロジェは、さらなる情報を求めて、ブエノスアイレスへと渡った――。

 愛原さん演じるレアもまた、両親の重い過去を背負い、戦犯の追及に執念を燃やしていました。抑えた演技の大人の女は、愛原さんによく似合います。ロジェとの出会いは恋に発展するようなしないような曖昧さでもどかしいのですが、恋愛ストーリーが基本の宝塚において、徹底して男の孤独に向き合うのは正塚さんの作品ならでは。そんなところが、男役の粋さを際立たせているのかもしれません。

 犯人シュミットを演じる緒月遠麻(おづき・とおま)さんは、出番が後半に限られるものの、物語のカギとなる重要な役どころ。悪者や三枚目など濃い役が目立つ緒月さんですが、舞台を引き締めるいい役者さんになりそうです。そのシュミットを守る組織の一員クラウスの早霧せいな(さぎり・せいな)さんも「美形なワル」といった感じで強く印象に残りました。

 大切な家族の命を奪った憎きシュミットにとうとう辿り着いたロジェ。しかし彼は思いもよらぬ人物だった。はたしてロジェは復讐を果たすことができるのか―。

 ラストシーンは宝塚から旅立っていく水さんの姿と重なります。飾りのないシンプルなスタイルだからこそ、より一層光る男役のカッコよさ。クールな水さんの魅力がいかんなく発揮されたラストステージと言えそうです。

 ショーは「Rock on!」。オープニングから電子音も鳴り響くビートのきいたロックのリズムで、これは盛り上がる! 曲も簡単に覚えられて、帰り道に鼻歌も歌えそうですし、いきなり客席降りもあってノリノリになってしまいます。すぐそばにジェンヌさんがきてロックオンされたらぜひ、恥ずかしがらずにニッコリ応えてみましょう。

 

 幕開けから一気に盛り上がった後も、バラエティーに富む場面が次々登場し、衣装もあらゆるパターンが堪能できます。特に水さんは、キラキラのラメあり、白い王子様あり、スーツあり、ふわふわなアラブの王子様風あり、もちろん黒燕尾ありと、あっという間に着がえては踊りに踊る、まさに出ずっぱりな印象です。ちなみに第5場の「Show Time」はバージョンが2種類あって、ブルースとラテンのどちらに当たるかは観劇時のお楽しみだそうですよ。

     


 最後にやってくる黒燕尾のシーンがまた圧巻でした。極楽鳥を模したロケットからラテンナンバーへと続き、終わりに近づく頃、後ろの幕が上がり、大階段に整然と40人並んだ黒燕尾の後ろ姿が…この流れが実にドラマチック。黒燕尾には珍しいロック調の音楽で、水さんがせりあがってくると、思わず心の中で「キャー」と叫ばずにはいられません。

                 


 とにかくテンポよく展開されるショーと、これでもかと繰り出されるカッコよさにやられっぱなしです。素顔は意外に女らしいと言う水さんの最後の男役姿、これが見納め!と脳裏にしっかり刻みこんできました。      写真・岸隆子さん