それでも東芝は生き返ると思うが・・・。

「もう会社が成り立たない」 東芝4度目の危機 (迫真)
2017/2/21 5:25日本経済新聞 電子版

 2月14日午前、東京・芝浦。東芝フラッシュメモリーを成長させた立役者、副社長の成毛康雄(61)が「メモリーを100%売る。その覚悟が無ければ、もう会社は成り立ちません」と取締役会で訴えた。

 夕方には決算発表の記者会見が予定されている。社長の綱川智(61)は「会見では社会インフラを会社の軸にすると言わせてもらいます」と会議を締めくくった。丁寧だが、これまでにない強い口調だった。

□      □

 午後6時半、予定より2時間半遅れて綱川は会見場に姿を現した。報道陣や機関投資家などを前に深々と頭を下げ「決算延期で、ご迷惑をお掛けします」と謝罪した。


 結局、14日は正式な決算を発表できず1カ月の延期を余儀なくされた。原因は1月半ばに届いた報告書にある。米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)で幹部が現場に度を越したプレッシャーをかけていたという内部告発が記されていた。


 関係者によると名前が挙がったのは原子力事業を統括してきた前会長の志賀重範(63)とWH会長のダニエル・ロデリック(56)だという。監査委員会が「1カ月程度の調査が必要」と判断すると、ぎりぎりまで期日通りの決算を目指してきた財務担当の専務、平田政善(58)らも「あきらめよう」と白旗を揚げた。


 2015年4月に発覚した会計不祥事で総合電機の名門、東芝の信用は地に落ちた。経営陣を刷新し再起を誓うと、16年度は半導体が好調で業績が上向く。明るい兆しが見え始めたところに大きな落とし穴があった。


 昨年12月21日。急きょ開かれた取締役会が10秒間、沈黙に包まれた。会長の志賀が「WHで数千億円の損失が発生するかもしれません」と報告すると出席者は声を失ったという。ようやく「もう減損したはずでは」との問いが出ると「別件です」。社長の綱川は「何のことなのか理解できない」と繰り返した。


 WHが15年末に買収した原発の建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)でただならぬ出来事が起きた。105億円のマイナスと見ていた企業価値は6253億円のマイナスと60倍に膨らんでいた。「買収直後に結んだ価格契約が原因」と、ある幹部は打ち明ける。


 複雑な契約を要約すると、工事で生じた追加コストを発注者の電力会社ではなくWH側が負担するというものだ。原発は安全基準が厳しくなり工事日程が長期化した。追加コストは労務費で4200億円、資材費で2000億円になった。


 問題は担当者以外の経営陣が詳細な契約内容を認識していなかったことにある。米CB&Iは上場企業で、原子力担当の執行役常務、畠沢守(57)らは「提示された資料を信じるしかなかった」と悔しさをにじませるが、会計不祥事で内部管理の刷新を進めるさなかの失態に社内外から批判の声がわき上がった。


 原子力事業全体の損失額は7125億円にのぼった。16年4〜12月期の最終赤字は4999億円となり、12月末時点で自己資本は1912億円のマイナスだ。先達が営々と蓄積してきた利益が全て吹き飛ばされ、ついに債務超過に陥った。

□      □

 1939年に発足した東芝は戦中戦後の混乱期を生き残り、60年代に土光敏夫ら名経営者が経営の礎を築いた。しかし、2000年以降に幾度も危機に見舞われる。


 IT(情報技術)バブル崩壊で2540億円、リーマン・ショックで3988億円、会計不祥事で4600億円の最終赤字を計上した。そのたびにDRAMや液晶パネル、医療機器といった事業の撤退や売却を繰り返してきた。4度目の危機となる今回、周囲の目は一段と厳しくなった。


 決算延期と債務超過転落で東芝株は売りが殺到した。年度末まで債務超過が続けば上場市場は東証1部から2部に降格する。250円前後だった株価は200円を割り込み20日終値は186円だ。「企業統治が機能しているのか」。15日、日本証券業協会会長の稲野和利(63)は強い口調で批判し、東証からは「決算延期はいつものことだ」と冷めた声が漏れた。

 メモリー事業の経営権を手放す覚悟を決め、株の売却交渉は仕切り直しになる。綱川は14日夕刻、「心を折らずに頑張れ。全力で取り組む」と社内放送で語りかけた。それは自身に向けた言葉でもある。(敬称略)