とかげのしっぽ切りか?

日本経済新聞引用

 三菱自動車の3つのなぞ  編集委員 西條都夫
2016/4/26 3:30

 三菱自動車が軽自動車の燃費を偽っていたことが明らかになった。かつての同社のリコール隠しの記憶はいまだ鮮明で、同じ会社が不正を重ねたことについてメディアの論調の厳しさは尋常ではない。某大手紙は社説で「(三菱自動車には)車をつくる資格なし」と見出しをとり、「消費者に引導を渡される前に市場からの退場を検討すべき時かもしれない」とまで書いた。自主廃業の勧めである。国土交通相官房長官、経済界首脳からも厳しい声が飛び出し、株価も下げた。少なくとも日本における三菱車のブランドはまたも大きく毀損するだろう。


 この問題について、同社の相川哲郎社長は20日国土交通省での記者会見で終始、沈鬱な表情を浮かべ、「石垣を積み重ねるように改善してきたが、浸透せずに無念だ」と言葉を絞り出した。この言葉にウソはないと感じたが、会見を聞いた限りで不審に思った点を3点ほど列挙しよう。

■性能実験部は“実行犯”にすぎず?

 不正の核心は、燃費算出の前提となる「空気抵抗値」を計算する際に、決められたルールを守らず、自分に都合のいい実験データを恣意的に選び出したことだ。その“実行犯”として名指しされたのが同社の性能実験部という部門。中尾龍吾副社長が「当時の(同部の)部長が『不正の指示をした』と認めている」と会見で明らかにした。


 だが、実行犯は性能実験部だとしても、同部に不正を指示した、いわば黒幕が他にいると考えるのが自然ではないか。

 近年、軽自動車をめぐってはダイハツ工業とスズキという2大メーカーの間で燃費競争が盛り上がり、一時は0.1キロメートル刻みで「どちらが上か」を競い合うスペック競争が起きた。2強に挑む三菱自動車としても、この燃費競争に背を向けるわけにはいかない。「できるだけいい燃費の数字を出さないと、競争に負ける」というプレッシャーが、今回の不正の背景にあったのは間違いない。

 だが、このプレッシャーの矢面に立って新車の燃費向上に責任を持つのは、性能実験部ではなく、新車開発を担当する部門だ。彼らが各種自動車部品の軽量化や、空力特性に秀でた摩擦の少ない車体設計や、その他いろいろな工夫を積み重ね、そのトータルの結果として新車の燃費性能が決まる。


仮にライバルより悪い燃費しか出せなかったとすれば、それは新車開発部門のせいであり、できあがった新車を実際に走らせて数値を確かめる性能実験部の責任ではないはずだ。加えて、燃費の数字が悪かった場合、それで切実に困るのは売れ行き不振に直面する販売・営業部門だろう。いずれにしても、性能実験部には自発的に不正に手を染める“動機”に欠けるのではないか。同部に不正を指示ないし示唆した黒幕がいるのか、いないのか。同社は外部有識者による第三者委員会をつくり、真相究明に取り組むとしており、不正の背後関係についてつまびらかにしてほしい。

■会見に不在だった最高経営責任者


燃費試験に関する不正行為について謝罪する相川社長=左(20日午後、国交省
 2つ目の疑問は会見における最高経営責任者(CEO)の不在である。相川社長は同社の最高執行責任者(COO)であり、CEOは三菱商事出身の益子修会長だ。これほどの不祥事で経営トップが顔を見せないのは解せない。益子会長は三菱自動車の社長になった直後の2005年3月に今回と同じ国土交通省記者クラブで会見し、情理を尽くした説明で「リコール隠し糾弾」にいきり立つ記者クラブの面々を納得させた一幕があった。それほどのコミュニケーションの名手がなぜ今回不在だったのか。

 3つ目は会見から少し離れるが、昨年11月に起こった“事件”である。新車開発を担当していた担当部長2人が、開発作業の遅れを会社に報告していなかったとして諭旨退職処分になった。これも尋常なことではない。組織のなかでコミュニケーションの断絶が生まれるような異常事態が起きているのだろうか。ともかくも燃費不正の真相の解明が進みことを望みたい。